第13話 駅の考察
財団が隠した駅。
クロノミナルの名において。
スズキの手帳から見えてきた名前だが、それだけではわからない。
「『駅』ってなんだよ! 地上に鉄道なんてなかったぞ! やっぱ地下鉄か!?」
海斗が興奮気味に言うと、翼も続く。
「じゃあ、地下を探し回るのか? バイクがあるって言っても、限界があるだろ!」
その安直な結論を、蓮が「待て」と制した。
「闇雲に地下を探しても、恐らく無駄だ。……刃多、『あの魔石』をもう一度見せてくれ」
蓮が指すのは、報酬として手に入れた魔石のうち、『換金できない』と判断された、あの奇妙な魔石のことだ。
刃多は『スズキの手帳』をデスクに置くと、コンテナから『壊れない魔石』を一つ取り出し、カメラに見せる。
「これだけの『莫大なエネルギー』を要求するギミックだ」
蓮の言葉を、航が引き継ぐ。
「フム。タナカさんやスズキのような『職員』レベルのIDカードで動かせるシロモノとは到底思えないね」
「ああ」
蓮は、会議室のテーブルに広げた廃港の全体マップを指差した。
「『クロノミナル財団』が『隠した駅』だ。タナカやスズキのような『末端』ではなく、この『港の開発計画』そのものに関わっていた、もっと上位の『役員』クラスが関与していると考えるべきだ」
文明型ダンジョンのギミックは、その世界観の『設定』を読み解くことが必要だ。 『駅』だからと地下を当てにするのは間違いではないが、『正しいルート』として地下に直行はあまりにも短絡的すぎる。
「光聖の配信アーカイブや、役所で閲覧できる公開マップを照合したが、地下鉄に繋がるような『公の』入口はどこにも存在しない」
蓮はメガネのブリッジを押し上げた。
「『駅』へのアクセス権は、『港の運営権限』と強く結びついているはずだ。僕たちが次に探すべきは、タナカさんたち『職員』の痕跡じゃない」
「……なるほどな」
剛が、蓮の意図を理解し頷いた。
「『役員』のIDカードや、その人物の私物……情報量を考えると『手帳』が必要になる、というわけか」
「そうだ」
蓮は、マップにピンを立てていた、ひときわ大きな建物を指差した。
「俺たちが次に向かうべき場所は一つ。この廃港で、最も『権限』が集中していると考えられる場所」
蓮が告げた次の「遊び場」の名に、海斗はニヤリと笑った。
「『本社ビル』か! タナカさんより偉いやつの『お使い』ってわけだな!」
「フム。タナカさんやスズキは『駒』に過ぎなかった。次は『役員』の痕跡を辿る。実に美しい流れだ」
会議室のスピーカーから、刃多の静かな声が響く。
『わかった。本社ビルに向かう』
その肩の上で、ピコちゃんが「ぴいっ!」と、楽しそうに翼を広げた。
「しっかし、実際、地下鉄ってどこにあるんだろうな」
「そんなの決まっているだろう。刃多が今いる『コンテナヤード管理棟・地下倉庫』の真下だ」
「えっ?」
「刃多はアイテムボックスがあるから、あの量の魔石でも一人で運べる。だが、普通はそうではない。あの大量のギミック用の魔石が『大規模なギミック』に関わるとなれば、そして輸送網の合理性を考えれば……」
「今いる『地下倉庫』の真下の可能性が高いってことだね」
栞が頷いた。
「ああ。ただ、おそらく『ダンジョンのギミック』への嗅覚を備えていると思われるピコちゃんが何も反応しないし、この地下倉庫で手に入るスズキの手帳からはこれ以上のヒントはない」
「今いる場所の真下が目的の場所であっても、闇雲に倉庫を分析するだけじゃたどり着けない。というわけだね。実に美しい誘導だ」
「なるほどな! ただ、今は『本社ビル』だ。ただ……めんどくさそうではあるよなぁ」
「だろうな」
80万円分の魔石を手に入れるのに何度も往復した。
100万円分の魔石を手に入れるのに、『全く別のギミックの手帳の情報』が必要になる。
絶対にめんどくさいことが待ち受けているのは、間違いない。




