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かりそめの妻でよかったはず、なのに  作者: しきみ彰


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6/20

 それからのことは、シエナの予想通りに進んだ。

 シエナから話を聞いたシエナの父を経由して事の次第を聞いたセレスティアとイライアスの父親は、キャンベル公爵に対して苦情を入れたのだ。


 当たり前だ。本来であればきっと、二人がもう少し大きくなってから双方の了承を取って、婚約に踏み出したことだろう。それをたった一人の愚かな公爵令嬢に台無しにされてしまった双方の両親の気持ちを考えると、胸が痛い。両方とも、シエナの目から見ても子どものことを可愛がっていたからだ。


 またレニエ侯爵としては、妻が出産を控える大事な場面だ。嫌なストレスを与えたくない状況で社交界を揺るがす情報が流れてしまったのは、相当な負荷だっただろう。

 そして、双方話し合いの末――セレスティアとイライアスの婚約発表が行われた。


 というのも、セレスティアとイライアス共に「別に構わない」と言ったからだ。


 そのことに、シエナの胸がまたずきりと痛む。

 しかしその後も、三人の関係は特に変わらないままだった。

 ……というよりむしろ、前よりも一緒にいる機会が増えたような気がする。


 そのことに対する疑問を、ピクニックの際に口にすれば、セレスティアはシエナの膝の上に頭を乗せたまま唇を尖らせた。


「だって、他の子どもなんて信じられないもん! 本来なら秘密にしておくべきことを子供に話しちゃう親も親だけど、それを社交場で言うなんてますます信じられない!」

「それは……そうだけれど」

「でしょ!? だからシエナが聞いて直ぐにわたしとイライアスの親に話を通してくれたの、すっごく嬉しかった! ね、イライアス」

「本当だよ、ありがとう、シエナ」

「そ、そんな……私はただ、聞いたことをお父様を経由して、二人のご両親に伝えてもらっただけよ。当然のことだわ」


 手放しに褒められたことがこそばゆくて、シエナは顔を反らしながら言う。

 すると、起き上がったセレスティアにずいっと迫られてしまった。


「いい? シエナ?」

「は、はい……」

「当然のことを当然のようにできることが、いっちばんすごいの!」

「そう……?」

「そうに決まってる」


 今まで本を読んでいたイライアスが断言して、真剣な瞳でシエナを見つめてきた。

 その瞳に、未だに心臓が跳ねてしまう。だけれど心はひどく冷めていて、おかげでシエナはそれを正面から受け止めることができた。


「……二人にそう言われると、とっても嬉しいわ。ありがとう」


 はにかみながら言うと、セレスティアはシエナに抱き着く。


「シエナ、大好き!」

「私もよ、セレスティア!」


 すると、イライアスがそわりと肩を揺らすのが見える。どうやら仲間に入りたいらしい。

 それを見て、シエナはくすりと笑った。

 それでも一瞬、躊躇う。だけれど。


(……イライアスは、私の大切な親友。だから、ハグくらい普通よ)


 自分に言い聞かせ、シエナは空いているほうの腕を広げる。


「イライアスもおいで」

「! う、うん!」

「ふふ、大好きよ」

「俺も、セレスティアもシエナも大好きだ!」

「何をー? 私が一番、二人のこと大好きなんだから!」

「……そんなことで張り合うなよ、セレスティア」


 そう言い、笑いながらお互いに抱き締め合う。

 そんななごやかな空気の中、シエナは一人決意を固めた。


(この日々だけは、何があっても守り抜くわ)


 だってシエナは、二人が笑っている姿を見ているのが一番幸せなのだから。



 *



 ――それから、月日はあっという間に経つ。


 シエナとセレスティアは先に大きくなり、イライアスもその後を追うように身長が伸びた。もちろん、成長したのは背だけではない。


 シエナは、苦手な乗馬もダンスも人並み以上にできるようになり、レース編みの技術が上がった。そして処世術と本心を隠す技術も上がり、自分の気持ちをコントロールすることができるようになっていた。


 セレスティアは、運動だけでなく今まで集中が続かず興味もなかったことができるようになった。そんな中で一番彼女が夢中になったことは、水彩画だ。外に出て様々なものを見てきた彼女が持つ色彩感覚は鋭く豊かで、見る人を魅了する腕前になった。


 イライアスは、以前のように失言をすることがなくなった上で、剣術の腕をメキメキ上達させていた。また当時から美しい見目をしていたがますます磨きがかかり、同世代の令嬢たちによく付きまとわれている。その点に関しては、本人はとても不本意そうだった。


 そして三人とも、社交場での生き抜き方や対処の仕方を両親や家族から教えてもらったり、学んだりして、友人と呼べる人間を増やせるようになっていた。

 また、幼い頃だと目立つ人間に追従しがちな周囲も、それだけが全てではないと学びどんどん精神が発達してきたことも、三人にとっては息がしやすくなった理由だ。


 それでも、シエナにとって親友と呼べるのはセレスティアとイライアスだけだということに変わりはない。

 その過程で喧嘩をすることもあったけれど、結局はいつも仲直りをして笑い合える関係に戻った。


 そんな中、一足早くシエナは十六歳になり成人して――その二年後の春にセレスティアが、冬にイライアスが成人することになる。

 そしてそれを機に。


「わたしたちは一年後、結婚します」


 セレスティアとイライアスの挙式の日取りが、社交界に知れ渡ることとなったのだった。

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