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ガリ勉地味萌え令嬢は、俺様王子などお呼びでない  作者: 鶏冠 勇真
第二部:ガリ勉地味萌え令嬢は、腹黒王子などお呼びでない

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12話 決められた台本


「何故この世には『時を切り取って保管していつでも取り出して見れるような魔道具』はないのでしょうか」

「今までで一番無茶なこと言い出したな。神にでもなる気か?」

「この目に焼き付けたリオルの活躍をもう一度見たいのです!音声もつけて!時を戻すかそこだけ切り取ることができれば」


 魔術大会五日目。

 寮から闘技場までの道をリオルと共に歩きながら、シャリーナはここ最近の一番の願いを口にした。

 初日のロランドとの試合は勿論のこと、二日目以降の試合もリオルは順調に勝ち進んだ。立て続けに上級生に当たったにも関わらずものともしないで、更に「俺の戦い方だとむしろ魔力が多い奴の方が相性がいいから」と全く驕らない。格好良いにも程がある。格好良さに天井があるなら空まで飛んでいっている。


「……実家のゴッドに頼めばもしかしたら」

「おっとここにきて今までで一番直球に大層な名前がきたぞ。何者だ?」

「うちの庭師です。ちょっと発明が趣味で」

「クレイディア家に普通の使用人はいないのか……」


 馬車で渋滞する道の端を二人歩いて進む。カタツムリのような速度で進む馬車を追い越す度、もう降りた方が早いのではと余計なお世話なことを考える。


「勿論リオルの言葉も行動も一字一句一挙手一投足余すことなく覚えていますがやはり思い出すのと見返すのでは満足度が違うでしょうし」

「そんなに覚えてるなら充分だろ」


 アンジェリカとは闘技場前で、トビアスとはロランドを連れ出せなかった場合に観客席で合流する約束である。昨日も一昨日もトビアスは朝昼夕と何回もロランドを迎えに行き扉の前で説得していたようだが、未だ一言も返って来ないらしい。


「いいえ!例えば出会ったばかりの頃リオルの勉強の邪魔をしてはいけないと思って昼休みに一緒にサンドイッチを食べ終えたらすぐ退散していたところを初めてリオルが『邪魔じゃない』と引き留めてくれた時、視線は本に落としたままだったのに速読のリオルにしては珍しく数分前に開いてたページから一ページも動いてなかったことも覚えてますがこの時のリオルをもう一度見れるのであればもっとじっくり顔を見たく」

「そっ……そんな細かいことまで覚えておかなくていい!見なくていい!忘れろ!」


 と、楽しく思い出話をしているうちにあっという間に闘技場についた。


「シャリー、リオルくん!おはようっ」


 入り口の前ではアンジェリカが大きく手を振っていた。どうやら寮組のシャリーナ達より先に着いていたらしい。


「おはようアンジェ、早いわね」

「おはよう。もしかして結構待ったか?すまない」

「ううん、今来たとこだよ」


 しかし三人並んで闘技場に入ろうとし、シャリーナの肩がピクリと強張った。


「待ってくださいリオル。私今すぐ走って先に行くので観客席に続く階段前で待ち合わせしましょう!」

「何の意味があるんだそれは?」

「あ、シャリーまさかさっきの」


 思い立ったら即行動。すぐさまスタートを切り、怪訝な顔をするリオルとアンジェリカを置いて階段前まで走り抜く。


「こっちですリオル、こっち!」


 数十秒後。

 息を切らせるシャリーナの前に、どこか納得いかない顔をした想い人と、やれやれと肩を竦めた親友が現れた。


「ほら、リオルくん」


 アンジェリカが小声でリオルの肘をつつく。


「…………待ったか?」

「いいえ!今来たところです!」

「だろうな」


 恋愛小説でよく出てくる男女の会話。主にヒーローとヒロインのデートの待ち合わせで交わされるそれ。


「これがやりたかったんだよね?」

「ええ、ありがとうアンジェ!」


 びっくりする程スムーズに進んだと思ったら、走り去った数十秒の間にアンジェリカがリオルに教えてくれていたらしい。持つべきものは恋愛小説好きの親友である。


「何の意味があるんだこれは……」

「だってアンジェとリオルのやり取りを聞いて羨ましくて」

「女の子にはね、好きな人としたい憧れのシチュエーションってのがあるものなんだよ」


 訳がわからないといったふうに片手で顔を覆うリオルを、アンジェリカが宥めるようにぽんぽんとその肩を叩いた。






 六日間の日程のうち、魔術大会はラスト二日が本番だと言われる。

 一日目は予選扱いとして、四日目まで複数の狭いステージを使用し何組も同時に行なっていた試合を、五日目からは一組ずつ巨大なステージの上で行うのだ。試合のスケールも観客の応援も大きくなるというもの。


「待たせたな、みんな……」


 リオルの試合は午後の部二番目の予定なので、今日は午前中は観戦である。


「トビアス。ここに来たってことは、殿下は今日も駄目だったか」


 午前の部最初の試合が終わる頃。観客席のシャリーナ達のもとに沈んだ様子のトビアスがやって来た。


「お疲れ様ですトビアス。元気を出してください、まだ今日は始まったばかりです。殿下も午後には来られるかもしれませんし」

「まあ、それも望み薄いと思うけどね」

「ああ……」


 大きな身体で似合わない溜息をつきながら、リオルの隣に腰掛けるトビアス。やはり今日もロランドを連れ出せなかったらしい。


「五日目でも駄目か。だいぶ危なくなってきたぞ」


 魔術大会は五日目から上位決定戦に入る。ここで勝ち上がれば決勝トーナメント入りとなり、大会優秀成績者として最終日の閉会式で表彰されるのだ。

 たとえこれまでに敗退してしまった選手にとっても、来年に向けて学園上位陣の戦いを見ておくのはそれだけで価値がある。というか、単純に見応えがあるので多くの生徒が楽しみにしている。


「一回負けただけでここまで打ちのめされるか……?少し懲りてくれればいいとは思ってたけど、このままじゃあ……」


 魔術大会は観戦を含めて全員参加の行事ではあるが、三、四日目までなら観戦だけだと退屈だということであれこれと理由をつけてサボる生徒はいる。

 しかし五日目以降もサボる生徒などほぼ皆無だ。しかも今回は最終日に王妃が観戦に来ることになっているのに。序盤で負けたことは仕方ないとはいえ、その序盤で負けた王子が観戦にすら来ずに寮に引き篭もってるとなると。


「まさかロランド殿下は今日もいらっしゃらないのでしょうか?」

「初日以降ずっとお見えになりませんわねぇ」

「負けたショックで引き篭もってるという噂は本当だったのですかね……」


 周囲に座る女子生徒達の囁き声。

 このようにどんどん情け無い噂が広がってしまう。一昨日まではまだロランドの体調を心配する声の方が辛うじて大きかったのだが、昨日からいよいよ雲行きが怪しくなり、五日目の今日に至っては黄色い声援を送っていた女子生徒達までこの有様である。

 引き篭もれば引き篭もる程ただただロランドに不利な状況へ傾いていく。


「実はさ、今日も返事は無かったんだけど、何か物音がしてたからドアに耳当てて聞いてみたら、『どうして僕がこんな誤解を受けなきゃいけないんだ』『アイツらのせいで』『誤解が解けるまで人前に出るわけには』ってブツブツ言ってて……」

「……それは……」

「ええ……」


 あちこちで囁かれるロランドへの失望の声を聞きながら、悲しげな様子でトビアスが言う。


「いや誤解じゃなくて全部ありのままの真実じゃん、なにそれ?」


 この期に及んで何を言うかと思えば。なんとも情けない言い分にアンジェリカが真顔で突っ込む。


「まあ素直に反省してくれるとまでは俺も思ってなかったけど……」

「で、でも、そんなことを言ったらロランド殿下は、もう一生外に出られないということになるのでは……」


 最初から誤解などされていないのだから、誤解(だと本人が思い込んでいるもの)が解けることだって永遠に無い。単なる現実逃避だ。

 これがただの甘やかされた金持ちの息子だったら親が許す限り好きにすれば良いだろうが、仮にも王太子が同じことをしては洒落にならない。

 シャリーナが気まずげに零した言葉に誰も反論出来ず、重たい沈黙が降りる。


「ええー……でもさあ、じゃあどうしろって話じゃない?わざと負けてたらそれこそ調子乗って何するかわからないし。全部殿下の自業自得じゃん。踊れピエロよとか言いながら自分で踊り狂って舞台から転げ落ちただけじゃん?」

「カークライトさんもう少しオブラートに包んで」

「まさにピエロとはこのことですよね」

「シャリーナとどめを刺すな」


 つい率直に言い過ぎてしまったアンジェリカとシャリーナをリオルが窘めたが、この場にいる全員が同じ気持ちだった。


「アンジェリカちゃん達の言う通りだ……ごめんな気分悪くなるような話しちまって。殿下のことはいざとなったら俺がドア叩き壊してでも連れ出してみせるからさ!今は試合を楽しもうぜ」

「……そうですね、私達がいくら悩んだってどうにもなりませんし……」


 そう言って胸を叩くトビアスが無理をしていることは明らかだったが、どうしようもない。

 言いようのない不安を抱えながらも、シャリーナ達はとりあえず気を取り直し、既に始まっていた試合に集中することにした。


 しかしその数時間後。ロランドがとんでもない方法で『誤解』を解こうとしていたことを、全員が思い知ることになるとは、その時はまだ誰も気付いていなかった。





 ◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆


 時は遡り、魔術大会四日目の深夜。


「……やはり、そうするしかないか」

「ああ。リオル・グレンには悪いが背に腹は代えられん……」

「それに王族に楯突いた時点で、アレもある程度の覚悟はしてるだろう……自業自得でもある」


 ファラ・ルビア学園の教員用会議室。窓もカーテンも閉めきられ、天井から吊るされた照明魔道具の一番小さな明かりが灯るだけの薄暗い部屋。


「タイミングはどうしますか?やはり本人だけ朝に呼び出して、公表は後日掲示板に貼るだけでも良いのでは……」

「何を甘いことを。全生徒に一気に知らしめるくらいしなければ殿下の名誉も回復しまい」

「……ですが、だからといって無実の生徒をそんな生贄のように公開処刑だなんて……!」


 長テーブルを囲み、声を潜めて話し合う教師達。その中で一番若い教師がこれ以上耐えきれないかのように声を荒げかけるも。


「生贄ではない。尊い犠牲だ。今我が国の後継者問題が拗れれば、そしてその原因がまたこの学園にあると王家に思われたらどうなるか……わかるな?」

「そ、それは……っ」


 正面に座る白髪混じりのでっぷりと太った男がそれを窘めた。その手の平の下にはびっちりと文字が綴られた一枚の紙が敷かれている。


「決行は明日、リオル・グレンの試合の直前。今更台本を変えることは不可能だ。下手に手加減すれば巻き返される可能性もある」

「そうだ。彼に挽回の余地を与えるわけにはいかんのだ……皆の前で『一回戦の勝利は自分の力である』と言わせてから、彼にこれらの不正の証拠を突きつける。言い逃れはできまい」

「証拠も何も!全部捏造ではないですか!」


 机の上に並べられた『不正の証拠』を射抜かんばかりに憎々しげに睨みつける若い教師。


「みな、本当にこんなことが許されると思ってるのか!」


 怒りに燃えた声でバンッと両手で机を叩き、賛同を求めて周囲を見渡す若い教師。

 しかし俯くか気まずげに目を逸らす者はいても、表だって賛同する者は一人もいなかった。


「誰もいないのか!誰か……っ」

「口を慎め。真実とは、時には作り出すことも必要なのだ」


 そんな重い空気の中、白髪の男が静かに言う。


「……一人の生徒と、この学園、この国の未来。天秤にかければ、どちらに傾くか言うまでもないだろう」

「ぐっ……」


 若い教師はそれ以上何も言い返せず、ただ悔しげに膝の上で両手を握り締めていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず、ラブラブなところですね、あとは、文章がとても読みやすいです!待ち合わせシチュもすごい具体的で面白かったです! [一言] 白髪でっぷり野郎が出てきたときに何するつもりじゃオラァ、…
2020/10/18 17:12 ぴえんびえんぴえん
[良い点] 更新再開!お待ちしておりました! あれだけ酷い負け方したら色んなものがポッキリ折れて、現実逃避してしまうのも仕方ないかもしれない。 庭師のゴッドさんならきっとビデオカメラ的なものも作って…
[良い点] ゴッドという庭師の経歴が知りたくなりました。絶対ちょっと発明が趣味レベルではないでしょ。 それとシャリーナとアンジェリカの率直な感想に同意見ですよね。立場が無ければ誰も気に掛ける事がない穀…
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