クレイディア家往復書簡
決闘から数日後、シャリーナと実家の両親の手紙のやり取り。
親愛なるお父様、お母様へ
ずっとお手紙書けなくてごめんなさい。最近色んなことがありすぎて、なかなか書く暇がなかったの。ようやく落ちついてきたから今まであったことについて書いていこうと思うのだけど、ちょっと衝撃的なこともあるから心の準備をしてから読んでね。
まずは一番大事な報告。
私、シャリーナは運命の人に出会いました!将来は絶対彼と結婚します!
彼の名前はリオル・グレン、グレン男爵家の三男で、科は魔術研究科で違うけど学年は同じで一年生。とっても頭が良くて特待生で、なんと入学試験では筆記で過去最高点を取ってるの!
勿論それだけで好きになったわけじゃなくて、凄く凄く格好良くて誰よりも優しくていつも私を助けてくれて、本当に良いところが数えきれないくらいあって、全部書こうとしたら書き終わるのが先か私の右手首が無事じゃなくなるのが先かのデッドヒートだから一部だけ書くことにするね。
まずリオルとの出会いから。
私がリオルと初めて会ったのは、入学してからひと月が過ぎた頃の昼休み、学園の裏庭。そこに咲いていた珍しい花を触ろうとして、彼に止められたのがきっかけ。
お父様、お母様、血吸い花って見たことあるかしら?黒い鈴みたいな花で毒があって、触ったら酷く爛れてしまうの。私が知らないでそれに触ろうとした時……背後からリオルが高過ぎず低過ぎずクールでミステリアスで小さくとも弱々しさはなく深みがあり心の奥にじんわりと響く声で『血吸い花だ。それに触ったら、爛れるぞ』と簡潔かつ明瞭で的確な忠告をしてくれて、間一髪でそれに触れずにすんだのが始まり。
振り返った時に、その人があんまりにも格好良くて息が止まったわ。
全てを包み込む夜の闇を思わせる漆黒の髪。それがヴェールのように顔の多くを覆い、簡単には全貌を見通せなくしていることで、秘めやかで神秘的な雰囲気を醸し出し……おそらく本人はそんなことは意図していないけれど、意図せずともこんなにも格好良くできるという、人を魅了する天性の才能を持っているということ。
そしてその漆黒のヴェールから見え隠れする理知的な深緑の瞳。一見冷たく見えるその瞳にたたえられた優しさを、私はもう痛いほど知っているわ。太陽のように強過ぎる輝きではなくて、穏やかにひっそりと瞬く星。それでも人を惹きつけてやまず、手を伸ばさずにはいられない、吸い込まれてしまいそうな美しさ。リオルの持つ深い知識や思慮深さがこの輝きに現れていると思うの。
それから、私と同じか少し高いくらいの身長に、同年代の女の子と変わらないくらいの体格。男の子なのに華奢で、威圧感がなくて親しみやすくて、変わらない目線で話ができるの。どちらかが首を痛めることもなく、どちらかが無理に歩幅を合わせようと気をつける必要も無いわ。
でも、その細い背中が、他の男の人よりも小さな手が、誰よりも力強くて誰よりも頼りになることは私が一番知ってる。
ここまで書いたことを総合して簡潔に言うと、リオルは世界一格好良い素敵な人です。いつかお父様達にも紹介するから、楽しみにしててね。万が一だけど反対されたらアポロンに相談しようと思います。
追伸
レオナルド殿下に求婚されて王城に拉致されて軟禁されてたけど、リオルのおかげで殿下が王位継承権を放棄することになって今は殿下が城に軟禁中だからもう大丈夫です。
シャリーナより
愛する娘へ
手紙読んだよ、ありがとう。元気そうで何よりだ。アストライアーやガブリエラ達がシャリーナからの手紙の話で和気藹々してるのになんで父にはないのかなー父忘れられちゃってるかなーってしょんぼりしてたけど、これで父も皆の輪に加われます。勿論母さんも喜んでたよ。
まずはシャリーナ、お疲れさま。頑張ったね。何があったか詳しくは知らないけれど、僕達への手紙を書く暇がないくらい忙しかったということは、きっととても大変なことがあったんだと思う。その一番大変な時に支えてあげられなくて悲しいけど、これからでももし何か力になれることがあったら何でも言ってほしい。
それから、シャリーナの選んだ人なら父は何も文句はありません。父が祖父から受け継いだ人を見る目を、シャリーナもしっかり受け継いでるはず。だから何の心配もしてないよ。
だからアポロンに駆け落ちの相談をするのはやめなさい。キュルッピーにどこまで運んでもらうつもりかな。ほんとそんな必要ないからね、やめなさいねほんと。今度リオル君を我が家に招待しよう。歓迎するよ。
追伸
前回の手紙の追伸をちょっと詳しく。
父より
親愛なるお父様、お母様へ
前回の追伸のことだけど、全部リオルのおかげだから一から詳しく説明すると紙という紙がなくなっちゃうからかいつまんでなんとか三枚におさめて説明するわね。
リオルがどんなに格好良いか、どんなに素敵か、どんなに優しいかをテーマにした三枚のレポートを同封したので読んでください。
シャリーナより
愛する娘へ
詳しくするのそこじゃなくてね。
父より




