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【84】4月9日+季節は廻りて


季節もすっかり暖かくなって、春めいてきた。


桜の花も満開で、見ているだけでウキウキする。


春休みも終わって、3年生に進級した。


クラス発表も終わり、高校最後のこの年に、期待と不安が過ぎる。


つかさは、生徒会の所用が有るとかで、さっさと生徒会室へと向い、光星は何やら新担任に呼ばれて職員室へ。


五十鈴と帰ろうかと思ったら、マコトに邪魔されてしまった。


そして、今、桜並木の下をマコトと二人して歩いている。


今日の夕方から、毎年恒例のお花見をするとか…。



「毎年、ここでお花見するんです」



賑やかなお祭り騒ぎが大好きな姫野家には、ぴったりな場所だと思う。


ちらっとマコトが私を見る。


初めて会った時は、私とほとんど同じだった身長も、この1年で少し見上げるくらいになった。


マコトの目が“お花見は、千星先輩も強制参加です!”と、言ってる――。



「分かってる!マコトの言いたい事!」

「えっ、分かるんですか?千星先輩!」



そりゃあ、話の流れとこの空気を読めば、それぐらい私にだって分かるって。



「だから、お花、み――」

「千星先輩、大好きです」



(――…え?――えぇぇーーっ??!!)



いきなり無茶なパ スを出されて、頭の中が真っ白になって会話の返球が出来ない。


でも、チャ、チャンスが巡ってきた!


ここで、“私も”って言えば、今まで“好き”と言えなかった想いが、伝えられる!


ちょっとズルいかと思うけど、今この場面を逃したくない。


“好き”は言えなくても、“私も”なら――!!!!!!



「わ、わた――」

「言わなくても、分かってます」

「…え?」

「千星先輩の気持ち」



な、何それーーーっ!!!!!!


私の決意とか、覚悟とか、そういうの完全無視?!



「マ、マコ――」

「千星先輩、オレの事、好きでしょう」



(………)



千星先輩の 事なら、分からない事は何一つ有りません!と、高らかに宣言するマコトに返す言葉も見つからない。


一つ大きく息を吐いて、もう開き直るしかないのかも。



「いつから、知っていたの?」



私だって、自分の事なのに、この気持ちがいつからのものなのか分からない。



「いつからって――それは…」



マコトがにっこり笑って、私の疑問に答えてくれる。



「それは、ですね」

「………」

「…え~っと」

「………」

「いつからでしたっけ?」

「はぁ?」



身構えていただけに、全身の力が一瞬にして抜けていく。


マ コトが間抜けなのか、訊いた私がバカなのか。



「それより、千星先輩。じっとしてて」

「?」



気を抜いていた私に、マコトの唇が近づく。



「ひっ?!」



ぱくっ。


髪の毛を軽く食むマコトに、「何、するよのよっ!!!!」と、慌ててマコトを突き飛ばそうとする私の腕をしっかりと掴んでマコトは言う。



「桜の花びら」

「え?」



マコトの唇には、ピンク色の小さな花びら。


普通に、手で取ってくれれば、いいのに…。



もぐっ。



「え?――食べた…。――って言うか、普通、食べるぅ??? ?!!!!」

「千星先輩のなら、美味しいかなと思って」



想定外のマコトの行動に、私はきっとこの先も巻き込まれて、振り回されるのだろう。



「?――千星先輩?」

「ううん、何でもない」



それより、早く行こう!と、マコトの手を取る。


大河さん達が、お花見の準備をしてるのを手伝わないと!




「マコト!」

「はい!」

「何が有っても、私に付いて来なさいよ!」

「“付いて来なさいよ”って、何処にですか?」



未来へと続く道は、迷路のよう に入り組んでいて、ままならないはず。


でもマコトとなら、挫けそうになっても、立ち向っていける。


だから、付いて来て!


この先も、私の隣に居て、並んで駆け抜けて行こう。







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