【82】3月14日+②
本日のメインイベントは、放課後の方だったりする。
集まりつつある下級生の女の子たち。
教室から溢れんばかりの女子の列を整理しているのはマコト。
行列の最後尾に立って、順番に並ぶように声を掛けている。
「千星先輩の為、騒がず静かに並ぶように」と、マコトが言えば女の子は従ってくれるので、私としては有り難いばかり。
一人一人、自分の手から手作りチョコを渡していく。
女である私からホワイトデーのお返しを貰っても、嬉しくないんじゃないの?
と思うけど、誰もが瞳をキラキラさせて、頬をほんのり染めているの女の子は、ある意味、これが本来の女の子の可愛らしさなんだと、思ってしまう。
私には、無いもの。
私には、似合わないもの。
理想と現実は、違うもの。
ちくっと、胸の痛みを感じる事は、羨ましさから来るものなのか。
最後の女の子に渡し終えて、手を振って「早く、帰りなさい!」と言えば。
「はーい、失礼しまーす」
「さようなら、千星お姉さま」
「今日は、ありがとうございます」
多くの賑やかな返事が返ってくる。
女の子たちの後姿を見送ってから、帰り支度をする。
チョコは、残り1個。
バレンタインに渡せなかったからと言って、プレゼントをくれる子も居たりして…。
多めに作って、正解だった。
「千星先輩の人気は、侮れません」
「……?」
マコトは私のお隣に立って、いきなり何を言うかと思えば、“人気”って、何?
「ファンクラブがあるって、知ってますか?」
「――はぁ?!」
「“Chise-Hodaka FAN CLUB”って、いうのがあるんです」
「ひっ?!!!」
な、何それ!!
ファンクラブ?
私の?
「マ、マコト!!ファンクラブって、いつから?!――って言うか、何でそんな事、知ってるの?」
「これ、見て下さい」
マコトの手の中には、淡いピンク色の名刺サイズのカード。
「ちなみに、オレ、会員番号9番です」
「なっ?!」
一体、何を考えてるのよ!!
「千星先輩?」
私があまりの驚きで、息をするのもままならない。
そんな私を不思議そうな顔で、私を見ないで!!
「何、勝手にファンクラブなんかに入ってるのよ!!」
マコトの胸倉掴んで、壁に追い込む。
「今すぐ、解散しなさい」
「ムリです~~」
「今すぐ、脱退しなさい」
「ムリです~~」
会員番号9番までは、幹部なので辞める事は出来ないんですと、私にしか見えない犬耳が垂れて、しゅんっとされると何も言えないじゃない!
今、ほんの少し背伸びをすれば――。
触れ合う――柔らかな唇。
「ダ、ダメです!!」
「っ!!!!!」
マコトが、マフラーの隙間から見える首を真っ赤にして振る。
「ここは、教室です!!」
「っ!!!!!!」
「オレだって、キ、キスしたいけど…」
「っ!!!!!!」
「つ、続きは、オレの、部屋で――」
「っ!!!!!!!」
こちょ!
胸倉を掴んでいた両手を瞬時に放し、両脇に滑り込ませる。
こちょ、こちょ!!
どんなに鍛えていても、こういうのには勝てないでしょう!!!!
「わ、待って!くすぐった、い!わわわ、千星、せんぱっ、わわわわわ」
「何が、続きはオレの部屋でよ!!!!!誰が、そんな事、言ったのよーーっ!!」
腕っ節じゃ、敵わない。
パワーで勝てないなら、こういう攻め方も有りでしょう!!!!
「だ、か、ら!わわわわ!!オレ、だって、それ、なりに、我慢、して」
「何それ!!私が、我慢させてるみたいに、言うんじゃない!全く!!!」
ちゅ。
必死に笑うのを堪えていたせいで、涙目になっているマコトの頬に、触れるか触れないかほどのキス。
「降参です」
当然よ!っという風に腰に手を当て、頷いて見せる。
「ある意味、ホントに降参です」
?――“ある意味”って、どういう意味?
「やっぱり、続きはオレの部屋で」
「バ、バカーっ!!!絶対、無いから!!!」
どんなに言葉で拒否しても、マコトが「早く、帰りましょう」と手を差し出されば、私の身体は自分の意志とは関係なく、勝手に動いてしまう。
手を繋ぐ。
指を絡ませると、自然に見つめ合う。
何も言わなくても、並んで歩いて。
私が先を行く時は、後ろを護って。
道を誤ったら、一緒に後戻りして。
きっと、回り道ばかりな私だけど。
平坦な道のりなんて、わざと避けて山あり谷ありの我が道だけど。
付いて来なさいよ!マコト!!!




