【80】2月21日+おまけ
あのバレンタインから、1週間過ぎた。
【千星と光星+その1】
「ねぇ、光星」
「何?姉さん」
「私が作ったチョコって、結局どうなったの?」
「あぁ、あれ。俺が食べたよ」
と、言う光星は爽やかに微笑む。
「大河さん達の前で、勝負に勝つ毎に1個ずつ頂きました」
最後に「美味しかったよ」と。
そして、想像してみる。
大河さん達の嘆きと容赦しない弟。
弟よ。
私以上に、鬼だ。
【千星と光星+その2】
「結局、あの後、どうなったの?姉さん」
「あの後って?何のこと?」
光星の質問の意味が分からず、聞き返してしまう。
「マコトにはキスまでって約束させてるけど、どうなったのかな?と思って」
「………!!」
何なの?キスまでって?約束って?
「俺の許可無しに、先には進ませないから」
「何、勝手な事を!!」
信じられない!弟が管理してるって、どうなのよ?
「放っておくと、暴走するだろう?」
「っ?!だ、誰が、暴走するかっ!!!!!」
暴走するわけ無いでしょう!!――って、しかけたのか?あれは?
「ま、そういう事だから」
「………」
あの日の“早まるな!”って、そういう意味も含まれていたりして…。
【千星と五十鈴】
「千星ちゃん、抹茶大福は、どうだった?」
「とっても、美味しかったよ!五十鈴」
「今年は、チョコいっぱい貰ったって聞いたから、予定変更してチョコから抹茶大福にしたの」
「五十鈴ーっ!!いつも、ありがとう!!!」
むぎゅうっと、抱き締めれば五十鈴は「ふがふが」と何を言ってるか分かんないけど、それすらも可愛い。
「千星ちゃんには、常に変化球で攻めないとね」
「…?なに?変化球?野球の事?」
「ううん、こっちの話」
「……?」
五十鈴の視線の先にマコトが居て――。
「………」←五十鈴(千星ちゃんの攻め方はこうだよ~!!)
「………」←マコト(オレ、直球しか投げれないんです…)
【千星とつかさ】
「つかさ!言っておくけど、こう見えても怒ってるんだけど」
「ごめんなさい。今回の事は私の早とちりだったようで…」
「……ほんとに?」
「だから、これで許して下さらないかしら?」
袋の中には、甘酸っぱいようなバーブのような、良い香りが溢れている。
「これ、なに?」
「フレーバーティよ」
「紅茶って事?」
「25種類もあるの。好みの物があれば、言って下さって」
天使かと見紛う美少女は、「いつでも、いくつでも、千星さんの為にお取り寄せするわ」と言って最高級の微笑みを見せる。
「千星さんには、魔球で戦意を削がないとね」
「…?何の話?」
「うふふふ、こちらの話」
「……?」
その微笑みの先にはマコトが居て――。
「………」←つかさ(千星さんの落とし方、もっと勉強なさい)
「………」←マコト(だから、オレには、直球しかムリです!)
【千星とマコト】
「千星先輩、オレ、変化球も魔球も使えないけど」
「何の話?」
「直球しか投げれないけど」
「野球の話?」
「速球勝負です!(千星先輩を想う気持ちは)誰にも負けません!」
「じゃあ、キャッチボールする?」
負けないぞー!!と、やる気満々の千星先輩。
あ、あれ?話がかみ合ってない?
そんなマコトと千星の様子を伺う二つの影。
(マコトくん、頑張れ~!!)←五十鈴
(姫野くん、まだまだね…)←つかさ
【千星と大河】
食事の準備をする大河さんは、いつものように割烹着を身に付け台所に立つ。
「今日は、キムチ鍋じゃ!」
かなり、ご機嫌な様子。
温かな湯気が、食欲をそそる。
大河さんが、テーブルの上にあるガスコンロに出来上がった鍋を乗せようと――。
「あっ!!大河さん、それ!!」
今まさに、大河さんが鍋を掴む為に使ってる、それは!!
「んん!?これか?割烹着のポケットに入ってあったんじゃ」
…そう言えば、前に大河さんの割烹着を借りた。
その時、まさか!入れっぱなしーーっ?!!!
「このピンクの鍋つかみ、使い易くていいぞ!」
「………」
私のお気に入りの手袋。
バーゲンでお手頃価格で買ったとは言え…。
ワンワン手袋(=ミトン)が、いけなかったのか?
ポケットに入れたまま、忘れてた私がいけないのか?
短い付き合いだったけど。
私の手袋よ。
第二の人生を歩んでくれ。
【五十鈴とマコト】
「そのマフラー、千星ちゃんのだよね?」
五十鈴先輩が、にこにこ嬉しそうに話し掛けてきた。
「はい、そうですよ」と、バレンタインに貰ったという事も、忘れず付け足して答える。
あの日から、風呂以外は肌身離さず首に巻いている。
そろそろ、千星先輩の愛の跡もかさぶたになってきている。
「もしかして、ちゅ~って、された?」
「!!」
五十鈴先輩って、見た目に寄らずストレートな所も有って…。
オレの反応を見て、首を傾げてる。
「あれ?違った?」
「あの…、実は…」
「分かった!千星ちゃんに、がぶーって、されたでしょう?」
「!!!!」
からかわれたり、冷やかされたり、するのかと構えていると。
「わたしもね~、前に一度、ちゅ~って、されて痕が付いちゃって、あの時は困ったよ~」
「ちゅ~ですか…」
困ったよ~っと言いながらも、楽しそうに嬉しそうに話してくれる五十鈴先輩。
そんな五十鈴先輩に、思わずオレは、こう宣言してしまう。
「オレも、五十鈴先輩と同じように、ちゅ~ってして貰えるように頑張ります!!!」
「頑張ってね!マコトくん!!」と、応援の言葉を残して五十鈴先輩は、トコトコっと去って行く。
「何を、頑張るって?」
振り返ると、耳まで真っ赤にして怒り心頭の千星先輩。
もしかして、一部始終聞いてました?――今の話。
【千星と光星+その3】
「光星」
「ん?」
真剣な表情を見せて、話し掛けてくる姉さん。
こういう顔をする時は、マコト絡みだ。
他人から見れば、たいした悩みでもないのに、懸命に考えるのは姉の良い所でもあり、悪い所でもある。
「耳って…」
「え?耳?」
姉さんは小さくコクっと、頷いた。
「耳って、どうやって鍛えればいいの?」
「はぁ?」
姉さんは、言葉を選びポツリポツリと話す。遠回しで理解しにくい内容を必要な所だけ掻い摘んで、脳内で話を繋ぎ合わせてみる。
「私の弱点が耳だなんて、有り得ない!」
本気で、困った顔をされても…。
「しかも、マコトに知られるなんて最悪!」
そんな事が最大で最悪な悩みとは、世の中平和だ。
「だったら、姉さんから先制攻撃を仕掛ければいいんじゃない?」
「そうか!その手が有ったか!!」
納得したのか、解決策が見つかって表情がぱーっと明るくなる。
「つまり、やられる前にやれって事よね!!」
……それは、違うと思う。
だけど、ここは「そうだよ」と答えておく。
マコトからはダメだけど、姉さんからなら…――我慢勝負だな、マコト。




