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【77】2月14日+②


外で待つのは寒いからと、校内の、しかも私の教室で待ち合わせをする事にした。


HRが終わって30分。


マコトと二人して一緒に下校する予定だったのに、どうしてこうなる訳?


私を取り囲む下級生たち(女子たち)。


アイドルの握手会さながら、順番に一人ずつ並んで流れ作業のようにチョコレートを渡していく。


有り難いのか、そうでないのか……。


ちょっとしたチョコ屋さんが開けそうなほど、一個受け取っては、机の上に置いていき、山積みされていく。


最後の女の子が「千星姉さま、私にも、今度勉強教えて下さい」と、頬を染めるのを見ると――そういうのは、好きな男に言え!!と、喉元まで出てきてる言葉を飲み込み、夢を壊してはいけないと、出来もしない作り笑顔で「ま、また機会が有ればね」と、当たり障りなく返答しておく。



ふぅ、疲れた…。



教室の片隅で、そんな私たちの様子を黙って見ていたマコトが本当に申し訳なさそうな顔して近づいて来た。



「スイマセン、千星先輩。中谷のヤツが――」

「………」

「あいつ、千星先輩が、受け取ってくれたって、言いふらすから」

「………」

「オレも、オレなりに、あいつらを撒こうと思ってたんだけど」

「………」

「あの~、タイミングよくというか、その~、着信が……」

「………」

「オレに付いて行けば、千星先輩に会えるって、それで…」

「………」



マコト。


言いたい事は分かった。


私が、携帯に電話しなければ良かったのよね。


いつもみたく電話もしない、メールもしない、でいれば良かったのよね。


普段ちっともしない私が、余計な事してしまった訳ね。


マコトは、そそいくさとチョコの山を崩しながら、紙袋の中に入れていく。



「準備が、いいのね」

「麻生先輩から、紙袋頂きました」



よく見れば、有名なアパレルメーカーのロゴが描かれた紙袋。



…あれ?


…なんか、モヤっとするんだけど。


…まさか、つかさのヤツ。


こうなる事を知って、わざとあんな事を言った?



――「だから、少し意地悪しても許してね」



あの魔天使がっ!!


怒りはつかさに対して4割、残りの6割は自分自身に。


まんまと嵌められた、という怒りより、情けないという気持ちの方が今は大きい。



「もしかして、昨日のあのチョコも……」



ほとんど独り言に近い小さな声で、ぼそっと呟く。



「そうですよ、先輩の分です」



しっかり聞こえてたようで、マコトは「昨日までで、17個です」と訊いてもいないのに、教えてくれる。



(17個って……、あまりにもリアルな数字)



1個ずつ誰からなのか、ちゃんと数えて保管してるのかと思うと、ちょっと笑えるかも。


少し肩が震えて笑うのを耐えていると、マコトはじーっと目を細くして私を見る。



「千星先輩、やっぱりモテて嬉しいんだ」



むすっとして、不機嫌な顔も可愛い。



「さて、帰るわよ!!マコト!!」



と、たくさんのチョコが入った紙袋を手にして教室を出ようとした時、手から紙袋をマコトが取る。


空いた私の手をマコトが、きゅっと握ってくる。



「え?」

「行きましょう、千星先輩」

「ちょ、ちょっと、マコト!!」

「何ですか?」



何ですか?って、学校で、皆見てるのに、手を繋ぐなんて!!



「手を、」

「千星先輩が、手袋失くしたって言うから」

「はぁ?」

「まだ、見つからないんでしょう?」

「………」

「せめて、片方だけでも、手を繋げば温かいと思うんです」



マコトの耳が赤い。


手を繋ぎたい理由が、“手袋を失くしたから”なんて……。


今回は、そういう事にしておきますか。


私からも、きゅうっと手に力を入れる。


誰に見られても構わない。


今日は、好きな人との特別な日。


バレンタインなのだから。




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