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【72】1月6日+②

「今年も、宜しく、お願い、しま、す!!」



何処かぎこちなく、喋るマコト。


微妙に視線が胸元辺りに…――ひっ!!!!



「は、半纏っ!!!!!」

「千星先輩の半纏姿、可愛いいです」



少し視線をずらし、ポっと頬を赤らめて言うな!!


おまえは、少女かっ!!乙女かっ!!!!


しかも、半纏姿を褒められても、ちっとも嬉しくないっていうのっ!!


でも、マコトが褒めてくれた半纏は、臙脂の地に白いウサギ柄。私の冬のお気に入り。


これを着て、コタツに入って、蜜柑を食べて、テレビを観る。


これが、私の冬の楽しみ。


半纏姿を見られたというのが問題ではなく。


半纏の下は、くたびれたのトレーナー(しかも光星のお古)に、下は色の褪せてしまったスウェット(こっちも光星のお古)。


髪は寝癖バリバリで、顔もまだ洗ってない。


明らかに、寝起きです!をアピールしてる。



「取り合えず、着替えてきたら?」



と弟の助言に、「五月蝿い!!」と、慌てて自分の部屋に駆け込む。



「………」



かーっと、頭に血が上っていくのを感じるかと思えば、さーっと血の気が引いていくのも感じる。


思考もままならにと言うか、眩暈がしてクラクラする。


とにかく、着替え!と意識が飛びそうなのを必死に堪えて、手にした服を着ていく。













ネイビーのパーカーに、ブラックのスキニー。


ショート丈のダウンジャケットに袖を通し、階段を下りる。



「姉さん、これ」



既に、出かける準備が整っている弟に、黒のニット帽を被せてくれる。


さすがと言うべきか、これなら寝癖もカバー出来る。


今日は、ヒラヒラでも、キラキラでもない。勿論、メイクも無し。


これが、普段の私の姿だ。


好きな物と、似合う物は同じとは限らない。自分を知れば知るほど、そうだと思う。




出かけた先は、近所の神社。


さすがに露店も無いし、人も居ない。


静かな境内には、私たち3人だけ。


いつもなら、巫女さん役のバイトの女の子が居るのに、今日は宮司さんのみだ。


おみくじを引いて、すぐ傍の枝に結ぶ。



「姉さんは、何だった?」

「無難に、“吉”」



と答えると、俺も、と返ってくる。



「千星先輩も光星先輩も、“吉”なんですか?お、お、オレは、凄いです!!」



そう言って、見せてくれるのは“大吉”のおみくじ。


まぁ、凄いって言ってた時点で、大体予想は付くけど……。



「お、オレ、初めてです!大吉って!持って帰ります!!」



持って帰るのは自由だけど、……その手に持ってるもう一つのヤツって、まさか。



「あ、もうちょっと、待ってて下さい。コレ書きますから」



そう言って、マコトは油性ペンで、キュッキュッと音をさせてお願い事を書き上げていく。


マコトのヤツ、絵馬なんて――。


ちょっとぐらい、覗いてもいいよね?



『千星先輩が、オレの事、好きって言ってくれますように』



「ひっ?!!!!!!」



どうかしたんですか?とマコトは、振り返り私を見下ろす。


書き終えた絵馬を奉納して、手を合わせている。



「あ、な、か、よっ!!」

「千星先輩?」



意味不明な、単語だけしか口しか出ない。


酸素が足りなくて口をパクパクしてる金魚なんってしまったみたい。



「“あんた!何て事!書いてるのよっ!!”って、言ってるけど」



たった、4文字しか発してないのに、流石としか言いようが無い。


弟だからなのか?双子だからなのか?


光星は、私の言いたくて言えなかった言葉を代わりに一字一句間違う事無く言ってくれる。



「こ、わ、う、よっ!!!」

「???――光星先輩、千星先輩は、何て言ってるんですか?」


「“光星、分かってくれて、嬉しい、よっ!!”だってさ」



「へぇ、凄いですね」って、と感嘆の声を上げているマコトに、光星も満更ではない様子で、得意気な態度を取っている。



「千星先輩、もっと問題出して下さい!!オレも当ててみたい!!」



むかっ!!


クイズじゃないっ!!!!


だからと言って、上手く言葉が出て来ないっ!!!!



「ちょ、に、の、なっ!!」



私の場合、いつも言葉より先に身体が動く。


マコトの腹部を目掛けて、拳が唸る。


これでも、食らえ!馬鹿マコト!!



ボコっ!!!!!



「わ、分かったーー!!“調子に、乗るなっ!!!!”」

「……正解…って?――痛く、ない、の?」



渾身の一撃を喰らわしたはずなのに、マコトはにっこり笑って平気な顔をして、まるで何も無かったかのよう。



「オレ、一応、これでも鍛えてるから大丈夫です!!」



そう言って、セーターを捲って割れた腹筋を見せてくれる。



「ひっ!ひゃあぁぁ~~~~~~っ!!!!!!!」



公衆の面前で、いや、今この神社には私たち3人しか居ないけど。


寒空の下、せ、せ、セミヌードなんか披露してんじゃないわよっ!!!!!



「大丈夫です」



はぁ?この期に及んで、何か大丈夫なのよっ?!


すっと服装を直し、絵馬をクルっと回して裏側を見せてくれる。



『光星先輩と、ずっと一緒に、居られますように』



「………」



何なの?一体?


しかも、両面に書く人って、初めて見た…。



「良かった。愛されてるね、俺も」

「もちろんです、光星先輩!」


「………」



そ、そ、その会話に、入っていけなんだけど…。



「ウチに寄って下さい。オヤジ達が待ってますから」

「行こうか、姉さん。お雑煮食べさせてくれるってさ」


「………うん」



そう言えば、今年は少しもお正月っぽい事していない。


お雑煮、食べたい。



「千星先輩、早く」

「!」



手を繋がれて、一緒に一歩踏み出す。



(マコトの手、温かい……)



それは――まるで、キャンドルパワー。


蝋燭の火のように小さな灯火でも、私にはとても優しく柔らかな炎。


今は、この温もりを大切にしたい。


こんな事を、思いながら新たな年が始まった――。





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