【71】1月6日+①
気が付けば、冬休みも明日で終わり…。
窓の外は、昨夜から降っていた雪がほんの少しだけ積もっている。
「寒いと思ったら、積もってる」
小さなあくびをしながら、半纏に腕を通し階段を下りる。
「おはよ、姉さん」
「おはよ。父さんと母さんは?仕事に行った?」
「雪が積もってるから早めに出るって」
「ふーん」
双子の姉弟の会話は、ここで終わり。
二人して、朝ご飯を食べる。
いつもと同じ朝。テーブルに向かい合って食べる。
「今日は、のんびりする」と、食べ終わった食器を片付けながら言うと、「え?」という顔をする弟。
何よっ!私だって、のんびりしたい時だって、あるんだからっ!!
今年の冬休みは、あっという間に過ぎてしまった。
だからと言って、決して時間を無駄にした訳じゃない。
むしろ、その逆。
クリスマスもお正月も返上して、冬期講習に打ち込んだ。
「なっ、何っ??この日程はーーっ?!」
冬休みに入ってすぐ、冬期講習の日程表を見て、私は大声で叫んでいた。
「何?って、姉さんが選んだんじゃない!」
「あ、あ、あ、有り得ないでしょう!!明日から、朝から晩まで、毎日講習なんて!!!!」
「……自分で選んでおいて、それを言う?」
「いつ?私が選んだってっ?」
「期末テスト前日に、希望コースを訊いたけど」
「………」
弟よ。
あの時の、私は、冷静に考える余裕は無かったのよ。
――って言うか、普通、気付きなさいよ!!
“冬期講習・弾丸合宿コース”
誰が好き好んで、冬休み中合宿してまで勉強しないといけないのよーーーっ!!!!!
夏期講習同様、申し込みや手続きなんかは、全部光星にお任せ状態。
お任せとは言え、光星、少しは嫌がりなさい!
しかも、何の疑問も無く同じコースを選んでるのよーーっ!!!!
――と言う訳で、クリスマスも過ぎ、12月27日から1月5日までの10日間、みっちりと言うか、ぎっしりと言うか……、誰にも邪魔されず、充実した日々を過ごした。
「のんびりも、良いけど。出掛けるんだろ?」
「……どこへ?」
「昨夜、メール来てただろう?マコトから」
「………」
そう言われてみれば、来ていたような…、来ていたような……。
えっと、確かに来ていた。
「お正月らしい事してないから、初詣に行きませんか?って」
「………」
そう言われると、そういう事、書いてあったような…、書いてあったような……。
うん、書いてありました。
「姉さんからは、返信あったって、マコトは言ってたけど」
「………」
そう言われれば、返信はしたような…、したような……。
はい、間違いなく、しました。
「それで、何て言って返信したの?」
「………」
敢えて、それを訊く?弟よ。
今は、訊かないで欲しいな…、だって――。
「まさか、絵文字ひとつ?」
「………」
「やっぱり、空メールか…」
「………」
無言は、肯定と取ったらしい。それ、正解だけど。
「いつも、いつも、空メールって訳じゃないんだよ!!」
ここは、ここだけは、強調する。
「昨夜は、私も疲れてて、ちょっと…、その~、何て言うかさ~~」
じとーっと、した視線を向けて、信じられないなって顔で私を見ないでよ!!
「マコトが姉さんから返信が来たって言うから…。いつも、どんなメールのやり取りしてるんだか…」
「だって!メールするより、電話の方がいいと思うし!電話より、相手の顔を見て話した方が伝わると思うから!!」
「――そういう事なんだってさ」
光星の言葉は私に向けたものではなく、私の後ろに居る何かに話しかけている。
ゆっくり振り返る。
「ひぃっ!!!!!」
いつの間にっ!!!!
いつからっ!!!!
そこに居たのっ!!!!
「あ、あけまして、おめでとうございます…」
「何っ!!勝手に、人の家、上がってんのよっ!!!!!」
「光星先輩が、玄関の鍵は開いてるから、どうぞって……」
そう言ったのは、今回のメール送信者。
――マコトだった。




