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【70】12月22日

きっと、素直に認めてしまえば、楽なんだろう。


でも、それが私の場合、以外に難しい。


初めて会った時。


初めて言葉を交わした時。


初めて手を繋いだ時。


初めてデートした時。


初めてキスした時。


初めておんぶされた時。


結論――嫌じゃなかった。


自分で言うのも、嫌いだったら、顔も合わさない。


話もされたくないし、したくない。


適当に応対して、絶対に距離を置く。


なのに、居心地の良さに気づいてしまった。


もしかして、初めからこの感覚を認めなかっただけ?


もう、ここまで来たら、隠し切れないかもしれない。













「千星ちゃん、難しい顔してる!」

「あら、いつもこんな顔でしょう?」


「………」



今日は、終業式。


先生の話も終わった。通知表も貰った。


ガヤガヤと下校する生徒達の中、席に座ったままほんの少し物思いにふける私の横に立ち、五十鈴とつかさは私の顔を見て、言いたい事を言いたいだけ言っている。



「通知表の結果、良くなかった?」

「まさか、千星さんは常にトップよ」


「………」



このままじゃ、二人に良いように言われた続けるのが空しくて…。


「帰るよ!」と鞄を持って立ち上ろうとすると、二人に肩を押されもう一度座らされる。



「今日は、一緒に帰れないんだよ。千星ちゃん」

「…?」

「ごめんなさい、私たち4人で帰る事になったの」

「は?」



な、何?私だけ、仲間はずれ?


しかも、4人って、それって光星も含んでますって事?



「それと、千星さん。内緒で借りてしまったの。許してね♪」



つかさの手の中には、見覚えのあるイルカのストラップが付いたパステルピンクの携帯電話。


ちなみにイルカのストラップは、例の水族館デートに行った帰りに姫野家全員と半強制的にお揃いで買ったものだ。


勿論、光星にもお土産としてあげたのは言うまでも無い。


差し出された携帯の画面は、既にメール送信された文章が表示されている。



    今、すぐに教室に来い。


    5分で来い。



な、何?この文面は?


来いって、命令形?しかも、5分って…。


確かに、私っぽい文面だと思うけど、簡潔で明確な内容だ。


パタンと閉じられた携帯を「返すわね」と、言ってつかさは手渡してくれる。


誰に送ったかなんて、この際、もうどうだっていい。


だって、肩を上下させ息を切らせるマコトが、今、この教室に。


一歩一歩、近付いてくる。


五十鈴とつかさは、そんなマコトに声を掛けている。


教室を出て行く前に、振り返り五十鈴は片手を挙げ、つかさはウィンクをして出て行った。



(全く、大きなお世話って言うか…。つかさのヤツ勝手に携帯使って!!犯罪でしょう!!)



「オレ、ダッシュの自己記録更新したかも…。――千星先輩…?」



呼吸を整えながら、サラっとそんな事を言うマコト。



「――って言うか、廊下は走らない!って教わらなかった?」

「え?あ、その、ごめんさない…」



案外大丈夫かも。冷静で居られる。


謝るマコトは、いつもと同じで変わらない。可愛いわんこ。


私にしか見えない耳は、シュンと垂れていて思わず撫で撫でしたくなる。



「ち、千星先輩っ?!」

「え?…――ひ、ひぃ?!」



手が!


手が勝手に!私の意思と関係無しに!


しかも、背伸びまでして、私!


マコトの頭を撫で撫でしてる~~~っ!!!!!!


あ、有り得ないでしょうが~~~っ!!!!!


無意識って、恐ろしい~~~っ!!!!!



慌てて引っ込めた手を、マコトはじっと見てくる。



「な、なに?」

「もっと」

「は?」

「撫でて下さい」

「ひっ」



撫で撫で…、撫で撫で…。


誰も居なくなった教室で、私たちは何をやってるんだろう?



「もう、いいでしょう!」

「あ、あと少し」

「いつまで?」

「え、えっと、もう少し…」



べしっ!



マコトの脳天に平手を入れる。


イテテテっと頭を抱えるマコトを無視して、鞄を手にして今度こそ帰ろうとする。



「あ、待って!千星先輩!!」



慌てて追いかけ、私の斜め横に付く。



「あの、また、撫でてくれませんか?」



予想もしてなかった言葉に「はぁ?」と驚きと間の抜けた声を上げてしまう。



「えーっと、だから、先輩、上手いから」

「……なにが?」

「撫でるの」

「………」



な、何なの?それ?


褒めてるの?私、褒められてるの?


撫でるの上手いって、言われて喜ぶとでもっ!!


全く、何を考えてるの!!!!



「千星先輩」

「ひっ?!!!!」



いきなり、手を握られる。



「痛くなかったですか?」

「はぁ?」

「オレは、頭、痛かったです」



マコトはそう言って、私の手を見る。


そりゃ、痛いわよ!思いきり、叩いたんだから。



「べ、別に」



素っ気無く答えると、マコトは「よかった」とニコっと笑って私の手を引く。



(えっ?繋いだまま?!)



手を繋いで一緒に帰る先は、言わなくても自然と足が向く。


姫野家へ――。



(………あれ?)



これだと、いつもと同じ?


何も変わってないよね?


私もマコトも…。



変わった方いい?



それとも、変わらない方がいい?



どっちなんだろう?




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