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【69】12月9日+②


「千星ちゃん!!だ、大丈夫??!!!」



息を切らして、保健室に駆け込んできたのは可愛い私の五十鈴。



「大丈夫、ちょっと捻っただけだから」



そう答えると、五十鈴は安堵した表情にすっと変わる。


確か、先に帰ったはずの五十鈴。



「良かった~!階段から落ちたって、つかさちゃんから携帯に連絡来て、引き返してきたんだよ~~!」



保健室には、私と、付き添いのつかさが居て、そして正確には落ちた訳ではなく――私が階段を踏み外した原因を作ったヤツ――マコトが居る。



「五十鈴さん、ごめんなさい。先にお帰りだったのに」

「ううん、連絡くれて良かったよ」



五十鈴の視線が私の右足に。


湿布とテーピングでグルグル巻きにされて、いかにも“痛そう”をアピールしてる。



「これじゃあ、歩けないよね?」

「平気。ゆっくり歩いて帰ればいいんだし」



そっと体重を右足に掛けないように立ち上がる。それでも、痛みは有る訳で。


ほんの一瞬、顔を歪めてしまった。



「やっぱり、誰かに支えて貰って帰った方がいいよ。千星ちゃん」

「そうね。また転倒でもして、さらに怪我が悪化でもしたら、大変よ」



五十鈴とつかさが二人揃って、口々に言う。


その光景が、どこか楽しそうで、この場に不釣合いなキラキラしたオーラが見える。



「じゃあ、光星を呼んで、迎えに来させるから」

「そ、そそ、それはダメ!!光星くんは、透と一緒に帰っちゃったから」



私の提案をあっさりボツにした五十鈴。


やけに焦ってるのが、もろ怪しい。



「そ、そそ、その~、抱っこしてもらえばいいんだよ」

「?――抱っこ?」

「そうよ、千星さん。ここに姫野くんも居る事ですし、彼に最後まで責任を取って頂きましょう」

「……責任?」



あぁ、そういう事。


私とマコトを一緒に帰らせたいんだ。


全く、何を考えてるの!二人とも!!



「お姫様抱っこは、いいよ~~!」

「あら、五十鈴さんったら」

「本当に、お姫様になった気分になるから不思議だよ~!」

「うふふ、放してもらえないんでしょう」

「え~~!!ヤダ~~!!つかさちゃん、恥ずかしい~~!!」

「本当に呆れるぐらい、溺愛ですわね」



五十鈴、なに、その、まるで、私は既にお姫様抱っこ経験済み!みたいな発言はっ!!


放してもらえないって、何が?誰が?


……――!!!!!


――って、あのバカ!!!!!!


白澤のヤツーーーーっ!!!!


相変わらず、五十鈴にベタベタしてるなーーーっ!!!!!


今度、本気でこの拳を喰らわしてやる!!!!!!



「千星ちゃん。え~っと、な、仲直りは、早めの方がいいよ」

「――はぁ?仲直り?」

「いつもまでも、喧嘩なんて長引かせても良くなくてよ」

「…喧嘩って?」



今まで、黙って引っ込んでたマコトが私の前にやって来る。


「ごめんなさい」と、俯いたままひと言。


仲直りも何も、第一、私は喧嘩なんてしたつもりはない。


ただ、あの日。


――屋上で……。











想像していたよりも大きな背に背負われて、私は家に向かっている。


あの後、五十鈴は私の鞄を奪うように手に取り、“先に鞄だけ千星ちゃん家に持って行ってあげるね”と。


そして、つかさも“後で、伺いますわ。メイク落としの事もありますもの”と言って、先に保健室を出て行った。



「いい加減、降ろして」

「歩けないでしょう」

「ゆっくり、歩くって」

「支えて歩くぐらいなら、負ぶってる方が楽です」

「だから、一人で歩くって」

「その足じゃあ、無理です」



保健室を出てから、私とマコトはこのやり取りの繰り返し。


一向に私の意思を無視して、私を負ぶって歩くマコト。


階段を踏み外したのは、私が寝不足でふら付いたのが本当の原因。


だから、マコトは悪くない。


悪くないのに、私の話を聞こうとはしない。


つかさが“責任”なんて、言うから。



広くて温かな背中。


そう言えば、一度も“おんぶ”ってしてもらった事なんて無かったな。


父さんは、一度に二人をおんぶなんて出来ないって言うもんだから、それ以来抱っこさえして貰った記憶が無い。


おんぶした事はあるけど……、こんな風に怪我した女の子を負ぶって保健室まで駆け込んだ事あったな~。



「重いでしょう?」



背が高くて、大きな私。重くないはずが無い。


こんな時、小さな女の子なら良かったなのに…って誰もが思うはず。



「お、重くないです!!むしろ――」



この後、マコトが何を言ったのかは、記憶に無い。



「――むしろ、柔らかいです」



まさか、こんな事を言っていたなんて。


寝不足続きで、こんな状態にも関わらず私は深い眠りの世界へと発ってしまっていたから。


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