表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/84

【67】12月4日+②


ギギギーっと、錆び付いて重そうなドアをゆっくりと開けるマコト。


空は高く、秋も終わり――冬の空。


白く真っ直ぐな飛行機雲が、薄青い空を走っている。


少し、落ち着いて、さっきの一連の出来事を思い出してみよう。


マコトが私の名を呼ぶから、びっくりして…。


その拍子に、私が消しゴムを落とした。


だから、消しゴムを拾おうと席を立ち、しゃがんだ瞬間――。


ゴツンっ。


お互いのおでこをぶつけてしまって…。


あまりの痛さに顔を上げた瞬間――。


ちゅ!


かーっと顔が、いや、全身が熱くなっていく。


やっぱり、思い出すんじゃなかったーーーっ!!!!



「千星先輩」

「…ひっ?!」



何かが、騒いでいる。


私の胸の中で。



「ど、どうして?ここの鍵、マコトが持ってるの?」



この胸のざわめきを知られたくなくて、こんな言葉をマコトにぶつけてしまう。



「……麻生先輩が、“しばらく預かってくれないかしら?”と言うので」



でも、いつまで預かればいいのかな~?と、間の抜けた事を言っている。



(つかさ!!一体、何を考えてる?――って言うか、ここの鍵、どこから手に入れたーっ?!)



「ここ、静かで誰も居なくて、気持ちいいですね」

「……」

「空に近付いてるっていう気になりませんか?」

「……うん」



マコトが笑むから、素直に肯定の返事をする。


私は、空が好き。空に、近い所が好き。


二人して、すっと顔上げ、空を見上げる。



「先輩…」

「………」

「さっきのは、無しです」

「………」

「だから、ちゃんと許可を下さい」

「…!」



私とマコトの距離が無くなっていく。



「許可を」

「…っ!!!!」



目の前のマコトの瞳が揺れている。睫毛が震えているのが分かる。


大きな二つの柔らかな瞳が迫ってくる。


その瞳に吸い込まれそう。



何をどう答えればいいの?


何をどう考えればいいの?


何をどう伝えればいいの?



折角、勉強したのに全てが頭の中から消えていく。


真っ白になっていく意識の中、私の意思とは反して、訳も分からないまま目を閉じて一歩踏み出す。



触れる。


柔らかな温もり。


そこはイライラもモヤモヤも、シクシクも、感じない世界。


息苦しかった水の中で、ようやく酸素を得たような感覚。


ゆっくり目を開けて現実に戻ると、マコトが口元を手で隠して、有り得ないほど真っ赤な顔をして立っている。



「――?マコト?」

「…せ、せ、せ、先輩がっ!!オ、オ、オレにっ!!」



今、私、完全に意識が吹っ飛んでた。


その間、何をしてた?



――キス~~~~~?!



「マ、マ、マ、マコト~~~~っ!!!今のも、無しっ!!!!絶対、無しっ!!!!!!」

「先輩!!無しに、なんて出来ません!!!!オレ、滅茶苦茶、嬉しいー!!!!」



いつもの仔犬のような、ほわんっとした笑顔から、フっと色気のある男の笑みに変わる。


マコトの腕が、私の身体を捉えて放さない。


腰に、頭の後ろに、力強い腕は、私に逃げ場を与えない。



「千星、……好き…」

「マコっ、ちょっ、待っ、――んぅ!!」



覆いかぶさるように抱きしめられ、無数の小さなキスの星が降る。


このまま後ろへ倒れないように、つま先に力を入れ、必死にマコトの腕にしがみ付く。



「マコっ、――んーんーんー!!」



“マコト、――ヤーメーテー!!”



と、叫びたいのに、言葉は奪われていく。


全身の力が抜けていく。


上がどっちで、下がこっちで、右も左も分からなくなっていく。



この感覚、まるで――ゼロ グラヴィティ。



無重力状態の中で、狂おしいほどのキス。



(宇宙飛行士も、夢じゃない!)



こんな状況で、そんなバカな事を考えてしまっていた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ