【65】10月23日+真実
3人で付き合うって、こんな感じで。
中間テストも終わり、学校帰りに3人でスーパーに寄って、買い物をして酒屋にも行かないといけない事を伝える。
「お酒も買うの?」
「オヤジに、頼まれているので」
千星先輩は訊くだけできいて、返事は素っ気無く“ふ~ん”と答えるだけ。
商店街へと向かい、酒屋の前まで行くと店内に向かって大きな声で挨拶をする。
「おっ、マコ、来たか」
「お疲れっす!おやっさん!」
「オヤジさんに頼まれてた酒、奥に置いてあるぞ」
「いつも、スイマセン。あ、それと、自転車借りていきますから」
先輩たちに、少しここで待っててくれるように頼んでから、店の奥へと入っていく。
自転車にオヤジが頼んだ酒を載せ、落ちないように括り付けていく。
細い路地横から、自転車を押して店先に戻ると、おやっさんと光星先輩の話し声が聞こえてくる。
「お、マコ!この二人が、例の美人姉妹なんだろ?」
「……!」
想像するのは、簡単だ。
昨日、オヤジがここで、このおやっさんに先輩たちの事、話したな!
しかも、例の美人姉妹って?――うん、まぁ、それは、分かる。
でも、姉妹って?どう見ても、光星先輩は男だし、千星先輩は女……。
「で、どっちが、本命なんだ?」
「!」
ほ、本命~~~っ?!
思わず、先輩たちを見入ってしまう。
光星先輩は、いつもと変わらず、ニコニコしてる。この状況を楽しんでいるようで…。
千星先輩も、いつもと変わらず、ピリピリしてる。この状況を嫌っているようで…。
「どっち、なんだ?」
と、ニヤリと笑うおやっさんに、オレはここが商店街の真ん中という事も忘れて叫んでしまった。
「どっちも、本命だよ!!3人で、付き合ってるから!!!」
先頭を切って、自転車を押しながら歩く。
その後ろを、光星先輩が「マコトのバイト先って、あの酒屋だったんだ」と確認するように尋ねてくるから――。
「そうです…」
少し力無く答えてしまう。
「え?あの、お店がマコトのっ?!――って言うか、あんな大きな声でっ!!!!」
と、千星先輩が怒ってる。
振り返って見なくても分かる。ズンズンと歩く先輩の足音が全てを教えてくれる。
「全く!ここで、しばらく、買い物出来ないじゃないっ!!!!」
……千星先輩。
それって、大きな声で叫んだ事を怒ってる?
叫んだ内容に、怒ってる?
「千星先輩~~!光星先輩~~!」
立ち止まって、振り向く。
「オレ!本当の事を言っただけです!」
「え?!」
「え?!」
オレの言葉に、足を止めてくれる2人の先輩たち。
「どっちが、美人とか!どっちが、本命とか!
2人を比べるなんて、できない!
「オレにとっては、2人だから良いんです!」
そうだ、2人も要らないんじゃない!2人だから良いんだ!
「えーっと、オレの言いたい事って、分かります?」
「?」
「?」
2人揃って、首を傾げる。でも――。
「たぶん、こういう事かな?」と前置きして光星先輩が話し始める。
「俺と姉さんが、溺れてたら、どっち優先する?」
「えーっと、どっちも助けたいけど、いっそ、一緒に3人で溺れましょう!!!」
と答えると、光星先輩は、あはははって楽しそうに笑い、千星先輩は、何!バカな事を!!と、さらに怒り出す。
「3人とも、溺れてどうするのっ!!!第一、この私が溺れる訳無いでしょう!!!」
千星先輩が、腰に手を当て、ビシっとポーズを決める。
「仕方ないわね!私が、光星もマコトも、助けてあげるわよ!有り難く思いなさい!!」
……光星先輩は、そういうつもりで言ったんじゃないと思うけど、ここは――。
「その時はお願いします、千星先輩」
「さすが、頼りになるね、姉さんは」
「任せない!」
(あ、千星先輩の機嫌が良くなった!)
光星先輩に目だけで“光星先輩って、千星先輩の事、よく分かってる!凄いです!”と伝えると、この気持ちが伝わったのか、光星先輩はウィンクをしたくれた。
3人で、ずっと、一緒に居たいな。
光星先輩の「今日は、大人数だから」の意味が、家に着いて初めて分かった。
「え?母さん!何で居るの?」
千星先輩が、驚きの声を上げる。
昼間から、既に飲み始めてる大人たちは完全に出来上がっている。
「おお!晶子さん!!千星子たち帰ってきたぞ~~!」
「お帰り、千星!光星!あとで、父さんも来るからね」
どうやた、親同士で中間テスト最終日に、休みを取って親睦会をしようという事になったとか…。
この日、姫野家と穂高家、両家はさらに親睦を深めていったという事は言うまでもない。




