【62】10月13日+⑥
そして――。
姫野家を後にして、帰り道。
途中までと言う事で、マコトが送ってくれる。
それほど遅い時間でもないし、別に一人でもない。
光星も居るんだから、平気なのに…。
少し後ろを俯いて歩く、マコト。
そう言えば、食事の時から――ううん、姫野家に着いてから、ひと言も話してないような……。
「マコト?具合悪い?それなら、もうここでいいから」
「………」
マコトは顔を挙げ、ちらっとだけ私の方を見る。
その表情は、不機嫌で拗ねている感じがする。
「マコト?」
「――オレだって、先輩の事、可愛いって言ってるのに…」
聞き取れなくて「何?マコト」ともう一度言って欲しくて首を傾げる。
「
――千星先輩は、いつもオレんちに来ると、オヤジやミチ兄やトモ兄と…」
「?」
「オヤジには抱き上げられて、ミチ兄には顔を拭かれたり、トモ兄には髪や耳…」
「っ?!」
「オ、オレだって、千星先輩の事、滅茶苦茶触りたいーー!!」
「っ!!!!!!!」
な、何を言うかと思えば!!
“触りたいーー!!”って叫ばれても、“はい、どうぞ”って言う訳ないじゃないっ!!!!!
「はい、どうぞ」
「は?」
「え?」
まさか、許可が下りるなんて…――って、驚いてるのはマコトと、私の二人。
答えたのは、勿論、私じゃなくて光星だ。
「はい、どうぞって、言ってるんだけど」
「バ、バカっ!!光星!!何を勝手な事言って――」
眉間に皺がぐっと寄るのが分かる。しかも、光星は後ろから私のお腹に腕を回してくる。
「ちょ、ちょっと、光星っ!!!!!」
「マコトのやつ、ヤキモチなんて焼いてさ」
光星がフっと笑うとマコトは目を逸らし、見る見る内に真っ赤な顔になっていく。
「や、ヤキモチって?!、マコトが??」
「そういう事だから、姉さん、不公平はダメ!みんな平等にね」
「そ、そんな事、言われても――!!!」
そうよ、そんな事言われても、誰が好き好んで触らせるヤツなんて居るのよーーっ!!
大河さんもマサミチさんもマサトモさんも、全部不可抗力でしょうが!!!
「じゃあ、3人でする?」
さ、3人で?って、何を?
光星が目でマコトを誘う。
マコトが、私に触れる。
それは、母親に甘えてくる子供のような。
何か欲しいとは言わない。何も求めていない。
ただ、こうしていたいだけ。
そんな想いがマコトの腕から伝わってくるから。
不思議と、少しも嫌じゃない。
だから、私の手がマコトに背を抱く。
「じゃあ、俺も」
「なっ?!光星っ!!!!」
「うわっ?!」
私とマコトを二人まとめて、光星が抱き締めてくる。
楽しそうに嬉しそうに、光星は「ぎゅう~~」なんて言ってくる。
「こ、光星!やめて!ここ、外だってば!!」
「それなら、外じゃなければ良いんだ、姉さん」
「光星先輩!く、苦しい!!絞まってますっ!」
「俺の愛は息も出来ないほど、大きくて重いよ」
そして、「やめて!」と叫ぶ私に弟は口の端に不敵な笑みを浮かべて、こう言った。
「別にいいだろ!俺たち3人、付き合ってるんだもん♪」
「もん♪じゃなーーーーいっ!!」
「もん♪じゃないですっ!!!!!!」
「お!姉さんもマコトも息がぴったり!――お持ち帰りがしたい!」
「は?」
「え?」
は?
何を言って?
持ち帰りも何も、私は私の家に帰るだけ…――なっ?!マコトの事、言ってるの?!
マコトは瞳をうるるっとさせ、もう今日で何度目かの赤い顔。
わ、わ、わ、分かるーーーーーっ!!!!!
こんな表情の仔犬を見たら、誰だってお持ち帰りする!!
放っておけないと言うか、こう、何て言うか
もう、我慢出来ないって!!
本能的に、護ってあげたくなる感覚に襲われてる。
そんなこんなで、マコトは穂高家へ強制連行。
でも、よく分からないけど――。
本当に、3人で付き合うの……?




