【57】10月13日+①
先日の、アクアリウムデートは何とか無事に終わ――るはずも無く。
しかも、決して、あれはデートと呼べるものではなかった。
当日、マコトと一緒に現地に着くと姫野家の残り3人の男たちが各自自分のスケジュールを調整でもしたのか、入り口近くに照合していた。
だから、結局、5人でお魚鑑賞。
ゆっくり楽しむなんて出来なくて、気分はすっかり引率の先生。
でも、大河さんは、イルカショーでは一番前の一番真ん中の席を譲ってくれたり。
マサミチさんは、慣れないミュールを履く私にすっと手を差し伸べてくれたり。
マサトモさんは、大きなペンギンのぬいぐるみを買ってプレゼントしてくれたり。
思いもしなかった扱いに、最初はおっかなびっくりだったけど、お姫様気分も味わえて、嬉しかった。
(これって、五十鈴とつかさの魔法の効果?!)
魔法と言っても一過性のもの。
時間が経てば、元の私に戻る。
いくら私が望んでも、夢と現実の違いはよく理解してる。
なのに――。
「千星先輩、今日も可愛いです」
「ひっ!!!!」
どういう訳か、あのアクアリウムデート以降、マコトがこんな言葉を私に言う。
その言葉に一々反応してしまう私。
私の何処をどう見たら“可愛い”なんて言葉が出てくるのだろう?
五十鈴とつかさが掛けてくれた魔法は、すっかり解けてしまっているはずのなのに…。
しかも、背が高く、男勝りで負けず嫌いな――私なのに。
* * *
今、光星とマコトと私の3人で居る。
何故か一緒に、下校なんかしている。
私を挟んで、両端で二人が仲良く会話しながら歩いている。
普通、喋り難いでしょう!
歩く速度を遅めにすると、同じように速度を落とす二人が私の顔を覗き込んでくる。
「マ、マコト!今日、部活は?」
「テスト前なんで、今日から休みです」
えーっと、そうっか。
「こ、光星!今日、三浦さんは?」
「………」
私だって、姉として、弟の彼女の名前ぐらい把握してないと…。
まぁ、つかさからの情報だけど…。
「そ、その~、今日は一緒に帰ったりしなくていいの?」
「別れたよ」
「…え?」
「ちなみに、今さっき、帰る前に別れたけど」
目を見開き、口をあんぐりと開けてしまう。
だって、三浦さんと付き合い始めたのって9月の半ばだったはず!!――つかさからの情報だけど。
つまり、1ヶ月も付き合ってないって事ーーっ?!




