【56】9月23日+⑨
姫野家。
二人してなだれ込むように、挨拶もそこそこに玄関を上がる。
「何事じゃ?マコ!――千星子?!」
「た、たた、たた、ただいま!オヤジ!!」
「お、おお、お邪魔します!!大河さん!!」
押しのけ押しのけ、われ先にわれ先に。
マコトの部屋まで、廊下をドタドタと掛け抜けて行く。
「千星先輩、ズルい!オレの携帯!!」
「何、言って!肖像権侵害だってば!!」
充電中だった携帯電話を両側から引っ張り合う。
携帯電話から見れば、いい迷惑だろう。けれど、今の私には余裕なんて無い。
「だからと言って、他人のメールを勝手に見るのはダメですーー!!」
「そう言っても、私の了承無しに勝手に見るなって言ってるの!!」
「オレだって、可愛い先輩を見たいんです!!」
「写真の私は、これっぽっちも可愛くない!!」
「じゃあ、実物の方が可愛いって言うんですね!!」
「当たり前じゃない!!そんなに見たいなら――って、あれ?」
「………先輩」
「………っ!!!」
いきなりマコトが携帯を手放すから、私は反動で後ろへゴロンっと転がってしまう。
マコトは嬉しそうな顔をして、ペタンっと座る私を見下ろしてくる。
「は?…マコ…ト…?」
「千星先輩は、可愛いです」
「え?は?何、言って…」
「可愛いって言ってるんです!とても、可愛いんです!!」
マコトは、きゅっと膝を抱えて目線を私と同じに高さにして屈んでくる。
「見せてくれますよね?約束です!」
「あ、えーっと、私、そんな事、言ったかな?」
「“そんなに見たいなら”って言いました」
「………」
「“そんなに見たい”です!千星先輩」
「………」
「と言う事で、今度はちゃんと出掛けましょう。なので、写真は削除していいです」
マコトはにっこり笑う。
まさか
私、負けた?
言い負かされたーー??!!
「ム、ムカつくーー!!!!全データ、削除してやるーーっ!!!!破壊してやるーーっ!!!!真っ二つよーーっ!!!!」
「うわっ?!千星先輩ーー!!!それはダメですーーー!!!それだけはダメだってーーーーっ!!!!!」
そして、約束の日。
ピンポーン!
「おはよー!千星ちゃん!!」
「ごきげんよう、千星さん」
我が家の呼び出しフォンと同時に、五十鈴とつかさが大きな鞄を持って入ってくる。
「前回より、パワーアップでいくからね!!」
「全身全霊、私の持てる全てを出し切るわ」
「………」
この展開…、まさか、ふりだしに戻る?
もう、どうにでもして……。




