【53】9月23日+⑥
「バスケしたいのなら、入学してすぐ入部すれば良かったのに?」
「…そうですね。でも――」
ダンダンダンっとドリブルをする私と、ボールを私から奪おうとするマコト。
何度もフェイントを掛けてみても、簡単にマコトを抜く事が出来ない。
「でも――バイトとバスケ、両立出来るかどうか。それに家の事も手伝いたくて」
マコトの視線の先は、ずっとボールだけを見てる。
「だから、悩みました。どれも中途半端な事だけは、したくないから」
「それは、分かる」
私も中途半端は嫌い。やると決めたら、トコトンやり切らないと気がすまない性格。
「でも、オレ、やっぱり、バスケが好き」
そう言って、マコトに腕がボールの伸びてくる。
すっと、身体を割り込ませてボールを守る。
私は身体を反転させて、頭上にボールを掲げ、指先からそっとボールを放つ。
リングをすり抜けたボールをマコトは空中で受け取り、もう一度リング内へ叩き込んだ。
「千星先輩、スポーツも出来るのに運動部とか入らないんですか?」
「………」
昔からよく言われた言葉だ。
“スポーツしたら?”
“ウチの部に入らない?”
だって、私は基本的に身体を動かすのは大好き。
走ったり、跳んだり、全力で限界に挑戦するのは、好き――だけど。
「一人なら好きに出来たかな?けど、二人で出来る事を選んできたから」
それに、私には双子の弟が居て…。
いつからか、暗黙の了解と言うべきか、私と光星の間には――欲しがるのも二人で、諦めるのも二人で。
それが、当たり前の事になっていた。
私が部活したいって言えば反対はされないけど、家の事とか負担は光星の方が多くなる。
逆に光星が何かしたいって言えば、私の負担が多くなるだろう。
あくまで、平等に公平に。
今、思えば、これも両親の思い通りの事なんだろうけど…。
「オレ、千星先輩の事、好きです」
「………っ」
なっ?!今、ここで、いきなり何を言うの!!
「夏休みから一緒に居てて気が付いたんです」
「え?ちょっと!はっ?!――何をっ???」
思いも寄らない展開に、私の頭は付いていけてない。
再告白に、思わず初めて見たあの春の日差しの中のマコトと、今、目の前に居るマコトが重ねて見る。
背が伸びた。夏休みで日にも焼けて、髪だって、あの頃より短く切って――そうじゃなくて、私の中で何かが騒いでいる。
それが、何なのか、分からない。
「先輩の事、好きになるって事は、受け入れる事だって」
「…え?受け入れる?って、何を?」
「光星先輩が」
「はぁ?光星?」
な、何の事?光星が、どうかした?
「気付いたんです。二人の間に割り込むんじゃなくて、二人を一緒に受け入れるって」
「マコト…?何を、言って?」
「だから、千星先輩の事、好きです!光星先輩も好きです!」
柔らかい笑み、ボールを人差し指の上でクルクルと回しながら、照れているのか顔が赤い。
騒いでいる。
さっきから、私の中で騒いでいる。
止めたい。けど、止められない。
私は止めたいのに、止める方法を知らない。
「マコトの告白、すごーく、嬉しい」




