【50】9月23日+③
「10時まで、まだ少し時間あるわね」
「マコトくん、早く来ないかな~~」
二人の間には、達成感が漂う。
でも、この服とか靴とか、いいの?借りても?
「五十鈴、つかさ、この服とか…」
「差し上げますわ、千星さん」
「うん、わたしのも上げるよ」
「でも…」
「アパレル関係の親戚が居ますの。試作品なので売り物では、有りませんわ」
「わたしも。貰ったのはいいんだけど、馨さんよくサイズ間違えるんだよ~」
「……そうなの?」
「遠慮なんてなさらないで、千星さん」
「服も千星ちゃんが着てくれた喜ぶよ」
そこまで言われたら、素直に貰っておこうかな。
でも、“馨さん”って白澤の父さんだったっけ。それって、…微妙。
「五十鈴ちゃん、麻生さん、準備出来た?」
と、ドアの向こう側で光星が声を掛けてくる。
「さっきから、姉さんの携帯、ずっと鳴ってるんだけど」
そう言って、すっと開いたドアの隙間から携帯を持った手だけが出てくる。
「いいよ、光星くん!千星ちゃんの準備出来たよ」
五十鈴がドアを開けて光星を招き入れる。
「穂高くん、ほら、ご覧になって!素敵なお姉さまを!」
つかさ!す、素敵なお姉さまって?心にも無い事を!!
「………」
姉弟、目が合う。無言の光星、黙ってないで、何か言え!!
「――ふ~ん、オレも女装したら、こんな感じ?」
「ばっ!!!!!」
ば、馬鹿ーーーーーっ!!!!!!
あんたの女装なんか、誰が見たいかーーーっ!!!!
「へ?光星くんも、こういう洋服、着たいの?いいよ~!」
「あら、良くてよ。ここまで来れば、一人も二人も同じよ」
本気か冗談か、やる気満々の五十鈴とつかさ。
「任せて!光星くん!千星ちゃんより可愛くしてあげる~~!」
「私の実力はこんなモノではなくてよ!100%、本気を出すわ!」
(――五十鈴、私より可愛くって…。――つかさ、私には何%の本気なのよ!!)
………。
まさか。
もしかしたら。
これって…。
また、私……、遊ばれてる?
こんな格好に半強制的にされて、似合いもしないのに――。
「姉さん。また、携帯鳴ってる!」
光星が私の手の中に携帯を落とす。表示画面には“マコト”と出ている。
そんな私の様子を、五十鈴とつかさは温かい空気で見守ってくれる。
半分以上は野次馬的なものも入っていると思うけど。
「もしもし、マコト?そろそろ来るの?」
目だけで、この空気と彼女たちを抑えつつ、携帯に出るとマコトの声が――。
『せ、せ、先輩!昨日!メール!未送信!』
「は?」
何?その、単語だけの会話は?
『今日!急に!練習!試合!バスケ!』
「………」
あぁ、そういう事か。
『だ!か!ら!』
「最後まで言わなくても、いい…。分かったから」
『え?あ!千星!せんぱ――』




