【49】9月23日+②
ピンポーン!
「おっはよー!千星ちゃん!」
「ごきげんよう、千星さん!」
我が家の呼び出しフォンと同時に、五十鈴とつかさが入ってくる。
「お、おはよう…。――って言うか、もう勝手に上がって来てるし…」
しかも二人とも、大きなバッグを肩に掛けて、まるで今から長期旅行でも行ってきます!って格好だ。
「さぁ、準備!準備!!千星ちゃん!!」
「時間がありませんわ、千星さん!!」
「?!」
いくら私の方が背が高いとは言え、二人に両脇を抱えられたら、動きが取れない。
「?――な、何なの?五十鈴?つかさ?」
「わたしに、任せて!」
「こちらの部屋、良くて?」
つかさがキッチンに居る光星に尋ねている。
二人が来る事を知っていたのかのような――“いいよ”という軽い返事。
はっ!それより、今から何が始めるの?!
つかさと五十鈴が持ってきたバッグの中からは、大量の衣服。
ナチュラルカラー系でふわりとしたものが多い。
お互いに持ち寄った服を、あれでもない、これでもないと言っては、見せ合いをしている。
「ま、まさか…」
「千星ちゃん、これなんか、どう?」
五十鈴が選んだ服は、チュニック。色合いはカーキ色だけど小花が沢山散っていて、とても可愛い。
「あら、千星さんには、これよ!」
今度は、つかさ。グレージュ色のワンピース。一見シンプルに見えるけど、胸元には凝った白いレースがまた可愛い。
「あ、あのね…、二人とも、私、そういうのは……」
――って、人の話なんて聞いてない。
こっちがどうとか、そっちが何だとか、五十鈴とつかさだけで話が盛り上がっている。
(でも、どうして、朝早くから?)
そう言えば、昨日の帰り、つかさに聞かれたんだっけ。
マコトの“アクアリウムに行きましょう”を――。
「千星ちゃん、これ着てみて」
「……だから、五十鈴。それは、ちょっと」
「あら、千星さん、こういうの好みでしょう」
「……す、好きだけど、似合うとは…」
はい、はい!はい!!
好きですよ!大好きですよ!!
フリルいっぱい、リボンいっぱい、レースいっぱい!!
可愛い洋服、もう好き過ぎ!!
でも、そんな服は似合わないって、自覚してるから!!
「大丈夫だよ!千星ちゃん、すっごく似合うよ」
「そうよ、フルコーディネートしてあげますわ」
一抹の不安過ぎる。
だけど、ここで抵抗しても、長年の付き合いで無駄だって分かる。
五十鈴とつかさ相手じゃ、私に勝機は無いに等しい。
完全に分が悪い。もう諦めて大人しく、されるがままになるしかない。
フルコーディネートとはよく言ったもので。
つかさと五十鈴は、洋服は勿論、ヘアメイクからバッグ、さらに靴まで用意してくれた。
跳ねていたあの寝癖は跡形も無く、毛先が巻かれてクルンっとなっている。
唇はグロスで光り、指先にはピンクのネイル。足元にはローヒール。
「出来た!完璧~~!!」
「パーフェクトだわ!!」
「可愛い~~、千星ちゃ~~ん!!」
「コーディネーターが良いからよ」
鏡に全身を映す。
今まで見た事が無い私が立っている。
化粧なんてした事が無い。
こんな可愛い系の服なんて着た事が無い。
背も高いという事もあって、いつもシンプルでカジュアルなものばかり。
小さい頃から、男の子の服を着ていた私には、今更、女の子の服を着るなんて無謀に近かったから。
でも、本当はお洒落って好き。
こういう可愛い洋服って大好き。
一度で良いから、こんな格好してみたかった。
――まるで、魔法にでも、かかってしまったみたい。




