【48】9月23日+①
今日の天気は、朝から快晴。
祝日という事もあり、お出掛けするには絶好の陽気。
なのに、私は――。
昨日、HR終了後、いつものように遠くからマコトは尻尾を振って、廊下をタタタっと駆けて来る。
晩ご飯何にしようかな~?っと、考え事をしていた私には不意打ちだった。
両手をぎゅっと握られ、キラキラした目でマコトが言う。
「千星先輩、明日、アクアリウムに行きましょう!」
さらに、「10時に迎えに行きますねー!」と、自分が言いたい事だけ言って去って行く。
マコトのジャージ姿を見送る私は、“あ、そっか、これから部活か…”と心の中で呟く。
夏休み前なら「千星先輩、一緒に帰りましょう!」が決まり台詞だったのに…。
でも、私、何も返事すらしてないんだけど……。
マコトの中では、すっかり私と一緒に行く事になってるんだ。
「千星さん、明日、お・出・掛・け、なのね」
私以外の人には、愛らしい天使の歌声のように聞けるだろう。
でも、私には悪魔の囁きに聞こえてしまって、声が上擦ってしまった。
「つ、つかさっ!!」
「あら、そんなに驚かなくても。千星さん、明日が楽しみですわね。うふ」
明らかに、最後の“うふ”は、何かが違う。
「つ、つかさ、あ、あのね――」
きっと、根掘り葉掘り訊かれるんだろうと思い、先に適当な言い訳でもしようと考える。
「ごめんなさい、千星さん。今日は一緒に帰れないの」
「はっ?」
「安西先生と、生徒会役員選出のお話があるのよ」
「………」
柔らかな笑みを浮かべ、つかさは「では、お先にね」と言って背を向ける。
身構えてしまっただけに、肩透かしと言うか。
呆気無いと言うか…。
でも、つかさって、指名委員なんてしてたっけ?
* * *
穂高家の朝。
相変わらず、この家には私と光星だけ。
父さんも母さんも、どれだけ仕事が好きなのかってぐらい、家に居る時間は少ない。
でも、それは昔と何も変わらない。きっと、これから先もウチの家はこんな風だと思う。
「姉さん、今日、何時に出掛けるの?」
紺色のエプロンを身に着けた光星が、食器を洗いながら尋ねてくる。
「え?――あーっと、10時ぐらいに来るって、言ってた」
「寝癖、直しなよ」
「っ!」
光星に言われて、鏡を見る。
思い切り後ろの髪の毛が跳ね上がっている。
そんな事より――。
私、おかしい…。自分でも分かる。
イライラしてる訳でもない。落ち込んでいる訳でもない。
怒ってる訳でもないし、ただ、何となく落ち着かない。
しかも、昨日は興奮していて、なかなか寝付けなかった。
時間ばかり気になって、妙に壁に掛かっている時計の秒針の音が耳に残る。
ソワソワする、ムズムズする――そんな感じ。




