【47】9月19日+③
私、何か?した……?
ううん、してない!絶対、してない!!
「な、何で、こんな、走ったり――って、逃げな、くちゃ…、いけないのよーーっ!!」
走りながらだから、上手く喋れない。
繋いでいたマコトの手を振り払い、私は立ち止まる。
追い掛けて来る大河さん達と対峙する。
「そんなに、走りたいなら、地獄行きのフルマラソンでもしてろーーーっ!!!」
――熱波が来た!
空は、青く澄んで秋の気配。
9月下旬、今年は特に残暑厳しいとは言え――額に汗を浮かべる男たち4人を、1人の女子高生の言葉がさらに灼熱の地へと誘う。
「ち、千星子~!!!せめて、パラダイス行きにせんかの~?」
「千星ちゃん、フルもいいけど、ハーフもいいと思わないか?」
「千星チャン!それなら、ハイキングへ一緒に行ってみない?」
汗は汗でも、冷や汗をかきながら、この場を上手く誤魔化して乗り切ろうとする真っ青な顔の3人。
もう、逃げ場なんて無い。でも、火だるまだけはどうにか避けたいらしい。
私は、もう怒り爆発寸前。
だって、そうでしょう!
常識を超えた大量の着信に、迷惑メール。
しかも、いきなり訳も分からず追いかけられて、走らされて。
いい大人が何をするの!!って感じ。
「あ、姉さん、ここに居たんだ」
この場に似合わない涼しげに自転車に乗って、爽やかに双子の弟が現れた。
「図書館に居ないから探したよ」と自転車を降りてゆっくりと押しながらこの“現場”にやって来る。
「全く“地獄行き”だなんて…。それじゃあ、死の宣告だよ」
にこりと笑っているけど、企み感のある含み笑い。
その笑顔と、セリフがさらに姫野家の男達を震え上がらせている。
――って言うか、私を死神とでも言いたいのかーーっ!!!
「光星、あんた、何を考えてるの?」
「そういう姉さんだって、大河さん達がメールしても返信すらないって、俺に泣き付いて来るんだぜ」
「………」
「あんまり可哀想だから、今日姉さんを一番に見つけた人には、一日デート権を譲与しようか、と」
「……、どうして、デートなの?」
「だって、俺、夏休みに手に入れた姉さんとのデート権、まだ使ってない」
「なっ!だって、あれは――!!!!」
「まさか、忘れてたとか言う?」
「………」
――すっかり、忘れてた。
………。
………だからと言って、私、また、賭けの対象になってる…。
「光~~~星~~~~!!!」
「そんなに怒らない!姉さんとデートしたいって言う人が居るって嬉しいだろ?」
「はぁっ!!相手にも因るでしょう!!!」
その私の言葉を聞いた姫野家4人は肩を落として項垂れる。
何で?マコトまでガックリしてるのよ?
「まぁ、ここは、俺の独断と偏見で、勝者は該当者無し。だけど、努力賞って事で――」
光星は、マコトの方を向く。
「これ、二人で行ってきなよ」
「…え?」
マコトが光星から受け取った券をちらりと盗み見る。
それは、アクアリウムの入場券。
「姉さん。俺、これから出掛けるから。あとは適当に。それじゃあ、解散!」
………。
ただ、唖然とする私と姫野家の男たち。
何か上手に遊ばれたと言うか…。
自転車に乗って手を振り、立ち去って行く弟に「今晩、メシ抜きーーーっ!!!!!」と叫んだ。




