【46】9月19日+②
5分後。
図書館のトイレからそっと外の様子を伺ってみる。
(私、何で言われた通りにしてるんだろう?)
それより、そろそろマコトが来る頃。でも、まさか駅前から5分でここに来るって無理…――。
――き、来てるーーーっ!!
「マ、マコ――」
「しーーーー!」
え?“しーっ!”って、何?
唇に人差し指を当て、凄く焦った顔をして、私の方へ駆け寄ってくる。
う、うそ?本当に?わ、私?狙われているの?
息を切らして、額に汗を光らせて、私の目の前に立つ男の子。
黒のTシャツに、所々ダメージのあるジーンズ。
そして、緩やかで柔らかそうな茶色の髪の毛。
――って、髪が無い!
「マコト!髪――」
「え?あーっと、今朝、知り合いの美容院でちょっと…」
はぁ?何が“ちょっと”なのよ!滅茶苦茶短くカットしてるじゃない!!
本音を言うと、一度でいいから、柔らかそうな髪を触ってみたかったのに…。
「…触りたかった……」
「?…先輩?――それより、早くここから離れますよ!」
「ちょっと、いったい、何なの?」
「オヤジ達が、先輩の事――」
マコトは途中まで言い掛けて、私の手を取る。
いきなり手を取られて、しかも引っ張られて転びそうになる。
本当に、何?手を繋ぐなんて!気安いんじゃない?こら!マコト!!
駆け出した私たちの背後から、遠くの方から、聞き慣れてしまった声が聞こえてくる。
「うおぉぉぉぉ~~~!!千星子~~~!!!会いたかった~~~~!!!!」
ドドドドーーーっと、必死の形相、有り得ないスピードで、こっちに向かってくる大河さん。
(ひーーーーっ!!!!!)
本気で身の危険を感じ、私の走る速度も上がる。引っ張られていたはずが、逆にマコトの手をぎゅっと握り走る。
もう、無我夢中でどこをどうやって走っているのか自分でも変わらなくなっていく。
「先輩、こっち!」
マコトが急に進路変更するから、足が絡まってしまった。
繋いでいた手をすっと放し、マコトの手は私の腰に回され何とか転倒は逃れた。
そして、また、手を繋いで走り出す。
「大丈夫、ですか?」
「…へ、平気」
自分でも、よく分からない。
けど、こんな風にマコトの背を見て走るのって、不思議と嫌じゃない。
今までは、誰よりも速く、先頭を走るのが好きだったのに…。
誰かと一緒に走るのって、こんな感じなの?
「あ!千星ちゃん!探したよ」
と、右側からマサミチさん。
「千星チャン!見ーつけた!」
と左側からマサトモさん。
そして、当然、後ろからは大河さん。
「千星先輩!」
ぐいっと、またマコトに引っ張られて、私はただ走るだけ。
何?この、おにごっこ状態は?
私、何か?した……?




