【44】9月16日+③
自分でも瞬間移動でもしたんじゃない?っていうほど、信じられないぐらいの速さで職員室まで歩く。
壁に少し寄り掛かって立っているマコトが居た。
私の姿を見つけると、パーっと笑顔いっぱいの顔になる。
「千星先輩~~~!」
「………」
ニコニコと本当に嬉しそうに笑うマコト。
職員室前だというのに、そんな大きな声を出して。
しかも、私にだけに見える尻尾が大きく揺れている。
「オレ、先輩に連絡しようとしてたんですよ」
「………」
マコトは、こういうの“同じ事を考えてるって言うのかな?”う~ん“以心伝心?”なんて傍から見ても浮かれきっている。
はぁ?この2週間、会う事も無ければ、メールすら無かったくせに、何を言うのよ!!
「これ!見て下さい!!」
「?!」
マコトの手には、実力テストの結果表。
2年生にもあったんだから、1年にもあって当然。
「オレ、めちゃくちゃ頑張りました!!」
「!!」
どの教科も、平均よりも上の成績。
「夏休みには、凄く迷惑掛けたので、この2週間本気で勉強しました」
「……そう」
「先輩のおかげです!ありがとうございました!」
「……別に、私は、何も」
また、だ。
マコトに嫌味の一つでも言ってやろうっと思っていたのに、何も言葉が出て来ない。
何より、こんな風に笑って、お礼まで言われたら…。
昼休みの終わりを告げるチャイム。
職員室から先生達が次々と出て来ると、その中の一人の先生が「姫野!まだ居たのか?」とマコトの肩をポンっと叩く。
「早く、戻れ!授業が始まるぞ!――っお、例の彼女か?頑張れよ!」
と言って、さらに数回マコトの肩をポンポンっと叩いて教室に向かう先生に――。
「もちろん!オレ!頑張るよ!!」
と答える、マコト。
例の彼女って、私の事?私ってどんな風に見られているのよ?
――って、ちょっと、彼女って?私は、先輩で、そして友達!
友人の一人ですから!!!
「千星先輩、今日、一緒に帰りましょう。迎えに行きますから!」
と、振り向き際に手を上げて去って行く。
私、なんだったの?
本当に、いつのも私らしくない。
言ってやりたい事、山のようにあったのに…。
携帯番号だって、メールアドレスだって、交換したのは仲間内じゃ私が最後。
バイトの事だって、酒屋さんなんて知らなかった。
バスケに途中入部したのだって、そんな話、聞いてない。
始業式の日からテストの日まで、ずっと勉強してたの?
私、ちっとも、マコトの事、知らない。
この感じ、まるで――デザートアイランド。
たった一人、無人島に取り残されてしまったような感覚を感じていた。




