【39】9月1日+①
始業式。
まだまだ、残暑厳しい朝日の中。
ほんの少しだけ、秋の足音を感じる朝の風を受けながら登校する。
正門近くで私の愛しい少女が声を掛けてきた。
「千星ちゃ~~ん!!」
「五十鈴!」
五十鈴は、多くの生徒達が居るっていうのに、そんな視線も気にしないで私の胸に飛び込んでくる。
「おはよ~~!千星ちゃん!久し振り~!お土産あるよ!後で渡すね~!」
「あ、ありがと」
ニコっと笑顔で私を見上げてくる五十鈴は、とても日に焼けている。
「もちろん、光星くんの分もあるからね!」
と、私の横に立つ弟にも笑顔を見せる。
「五十鈴ちゃん!俺にも飛び込んで来てー!」
両手を広げて、何をバカな事を光星は!!
ぐいっ!
「ぐえっ」
「――もう少し夏休みを楽しむか?光星」
突然、光星は後ろから首を白澤に片腕で絞められている。
白澤の口元は笑っているが、目は冷ややかだ。
「けほっ、いや、だって、透!…俺だって五十鈴ちゃんと純粋に仲良くしたいだけー」
「光星だけは、ダメだ」
「あ~!差別だ~!」
相変わらず、五十鈴には甘い。些細な事でも譲らない、許さない。
まぁ、白澤の言う“光星だけはダメだ”って、分かる。
姉弟だけに不思議と理由は無くても分かる、うん。
「へ?光星くん。昨日で夏休み終わったのに、まだ休めるの?」
五十鈴の的外れな質問に、微妙なこの空気が和んでいく。
本当に天然なのか?計算なのか?
「光星くん!わたし!光星くんの事も大好きだからね!」
朝から、無邪気な笑顔。
「白澤くんも甘いわね。いっそ、永遠に夏休みというのは、どうかしら?」
ふわりと髪を揺らしながら、愛らしい微笑を浮かべる美少女。
口調は柔らかだけど、言葉はあまりにも黒い。
「おはよう、五十鈴さん」
「つかさちゃん!おはよ~!!」
私の腕をすり抜けて、今度はつかさの方へと駆けて行く。
「おはよ、つかさ…。あんたさ、夏休みに何かあった?」
「うふ、特に何も無くてよ」
そう言って、天使如く微笑を振りまく。
“何も無い”って…。
今まで以上に黒さが増しているように見えるんだけど…。




