【38】8月31日+②
「千星先輩、本当にありがとうございました」
ペコっと頭を下げて、マコトがお礼を言う。
ついさっきの寝起きの出来事を思い出して、心臓がドキドキしている。
そのドキドキの張本人が一歩前に出てきて、さらに目を合わせてくる。
まだ寝足りないっていう顔のポワンした表情は、妙に背中がウズウズさせるとうか…。
「マコト…、この休みの間、何をしてた訳?」
「え?えーっと、バイトと――遊んでました」
「誰と?」
“遊んでました”なんて言うか、ちょっと強めの口調で訊き返す。
「――先輩と…」
俯いて、少し照れているのを隠そうとしている。
そんな姿を見せられたら、身体中の血液が逆流したかのよう――ボっと火が点いた様に全身が熱くなる。
「わ、わわ、私がせいだって言いたいの?」
「え?あ、いえ、――オレのせいです」
ど、どもってしまったじゃない!!
動揺してるのを隠す為に、コホンと一つ咳払い。
「次からは、自分でやりなさい、いいわね!!」
「――はい…」
だ!か!ら!
落ち込むな!!
しゅんっとするな!!
どうして、そういう顔をするの?
つい、思ってしまうじゃない!!
――“可愛い”って。
きっと、私が変なんだ。
変な時間に寝て、変な時間に起きて。
これは、きっと、時差ボケと同じ。
体内時計が狂ってるから、ウズウズしたり、身体が熱くなったりしてるだけ!
「そろそろ、帰るよ。姉さん」
と弟に言われ、現実に戻る。
光星の後を歩き始めた私は、無意識に振り返ってしまった。
「千星先輩!明日、学校でー!!」
マコトが大きく手を振ってくるから、私もほんの小さく手を振った。
どうして?
振り返ったんだろう?
どうして?
手を振ったりしたんだろう?
私であって、私でなかった、この2日間。
私自身、気持ちが掴めないまま、今年の夏休みは終わってしまった。




