【33】8月30日+①
翌朝、目が覚める。
ふわぁ~っと大きな欠伸を一つ。
結局、あの後、お風呂を頂いて、先に寝てしまった。
もうすっかり慣れてしまった姫野家。
台所に向かい、冷蔵庫の中にある冷えた麦茶をグラスに注いで一気飲み。
しくしく…。
しくしくしく…。
何処からともなく、すすり泣く声が…。
う、う、うう、嘘でしょう~~っ?!!!
早朝から怪奇現象なんてっ?!
でも、有りかも、こんな和風の家だ。
座敷わらしの一人や二人してもおかしくない。
泣き声のする部屋の方へドキドキしながら、そろりそろりと歩く。
辿り着いた部屋。突然前触れもなく目の前で、バーーンっと襖が開く。
「ひっ!!!」
「千星子~、おまえの弟は有り得~~ん!しくしく…」
はぁ?有り得んって、光星が何かした?大河さん。
「千星ちゃん、自分は、自信喪失だよ…。しくしく…」
はぁ?自信喪失?嘘でしょう?いつも自信満々な人が!マサミチさん。
「千星チャン、こんな惨めな気持ちってない…。しくしく…」
はぁ?み、惨め?惨めって?よく分からないんだけど!マサトモさん。
姫野親子は、私の横をうな垂れ力無く、トボトボと通り過ぎていく。
部屋には、光星が一人居るだけ。
「姉さん!おはよう!」
爽やかに笑いながら、う~~んっと伸びをしている。
「な、何?何なの?光星!アレは?」
「ん?あぁ、余程、自信が有ったみたい」
「?」
「俺だけには勝つという自身」
と言って、今度は口の端を上げて笑む。
どうやら、姫野親子は初心者の光星だけには勝てると思っていたようで…。
「光星、マージャンなんてした事ないのに、勝ったの?」
「俺って、強いみたい」
「え?」
「不思議と賭け事になると負けないんだよね、昔から」
それって、博打の才能有りって言ってるのと同じじゃない。
「でも、俺が勝ったんだから、デート権は俺のもの」
「何が悲しくて姉弟でデートなのよ!」
「じゃあ、誰かに勝ちを譲った方が良かった?」
「………」
そして、光星も私の横を過ぎて行く。
私の肩をポンっと軽く叩きながら「さすがに完徹だから、俺も少し寝るよ」と言って大河さん達の後に続いて行った。




