【32】8月29日+②
バーベーキューの後に、花火をした。
手に持つ最後の線香花火が、チチっと火花を散らす。
オレンジ色の明かりが小さくなって、すっと消えていく。
――もの悲しくなるの。
夏の終わりを告げているようで。
そんな感傷に浸っている私、なのに…。
ここの男どもときたら、子供か!?っていうぐらい大声出してはしゃいでいる。
「うるさーーいっ!!!」
私の怒声が姫野家に響き渡る。
「もう、夜も遅いんだから、少しは静かにしないと近所迷惑――って、何してるの?」
男4人がテーブルを囲んで、ジャラジャラと。
(これって、マージャン?!)
「明日の千星子とのデートを賭けて、勝負じゃ!!」
と、大河さん。
「勝ちは誰にも譲りません」
と、マサミチさん。
「負ける気がしない!」
と、マサトモさん。
「大河さ~ん、姉さんにバラしてどうするの?」
と、我が弟。
………。
勝負の熱気に溢れていた部屋が、一気に冷めていく。
勿論、冷気を発しているのは、この私。
ギコギコと油の切れたロボットのように、光星以外の3人の男たちが私の方へ青ざめた顔を向ける。
腕組みをする私はにーっこり笑っているけど、頬をさっきからピクピクしてる。
「腹部に拳、後頭部に踵、どっちが好き?」
究極の選択だ!
さぁ、選べ!バカな姫野の男どもよ!!
「姉さん、それはヤバいって」
と、光星が普通に答えてくる。
「第一、俺が勝てば良いんだから」
「勝てるの?マージャンなんてした事無いくせに」
「ま、それなりに。教えてもらったし、何とかなるよ」
「………」
な、何?その自信は?どこから出てくるのよ!!
でも、そんな事を言っても――。
「でも、もう遅いから、帰らないと…」
「今日はお泊りだよ」
「…はぁ?」
「俺のバッグの中に、姉さんの分の着替えも入れといたから」
今、何を?言った?
お泊り?着替え?
か、かかかか勝手に、私の服を物色したのかーーー!!!
怒りで我を忘れそうになってる所に、耳にヒヤリと冷たいもの。
何やら、声が聞こえてきて――『もしもし…』
冷たいものの正体は、携帯電話。
大河さんが私の耳に当てている。
『もしもし、大河さん?』
電話の相手は、大河さんを呼んでいる――この声は…。
「か、母さんっ?!」
『千星なの?どうかしたの?』
な、何で?母さんが?
奪い取るようにして、携帯電話で母さんと話す。
「こっちが訊きたいよ?母さん、何で大河さんと電話――」
『何、言ってるの!夏休み中、姫野さんにお世話になりっ放しのくせに』
「………」
『それより、今日は泊まるんでしょう?大河さんに代わって』
無言のまま、携帯電話を大河さんに返した。
大河さんは、頭を掻きながら「晶子さん、すまんの~。ワシ達の方が楽しく――」なんて話をしてる。
最後には、頭をペコっと下げて電話を切った。
ちなみに“晶子さん”というのは、私たち双子の母の名で…。
「大丈夫?姉さん」
「光星、これって、あんたが――」
「当然だろう。ほぼ毎日、家に居ないでココに居るんだから」
「そ、それは…」
確かに、夏休みのほとんど、平日も休日も関係無しに入り浸り…。
「親同士、仲良くして貰った方が何かと融通も利くし」
「………」
そう言えば、昔から何事にも要領良かったよ、光星は。
あんなに怒っていたはずなのに、すーっと何処かへ消えてしまった。
そんな私の事なんて、気にしてるのか、気にしてないのか――じゃあ、始めようよ、と弟はこのゲームを楽しもうとしている。
ちょっと!!賭けの対象は私なんですけど…。




