【30】7月28日+帰り道
結局、マコトには公園まで送って貰った。
そして、真夏の夜風を受けながら、私は光星が運転する自転車の後ろに立ち乗りをしている。
これで、良かったのかな?と何度思っても行き着く所は同じ。
――これで、良かったんだ、と。
クスクス笑いをしていると光星が「何?気持ち悪い」と言ってくる。
姉に向かって“気持ち悪い”だとーーっ!!
ポカっと一つ拳を弟の頭に落とす。
「痛って~~!!俺、こんなにも姉さんの事、思って――」
「!――うん、まぁ、それは、分かってる。ありがと…」
「す、素直過ぎる…、不気味だ」
「…いい加減にしないと、殴るよ!」
本気半分、嘘半分、拳を作る。
そんな私に光星は「そんな事したら、大河さんに言うからな“姉さんに苛められた”って」と言い返してくる。
「………」
大河さんか…。きっと、くどくどとお説教されそう。
たった一人の弟を苛めるとは何事だって。
すると、何をしてるのかと、マサミチさんもマサトモさんも来て、一緒にくどくど――。
「わ、私が、悪かったわ」
本当にそう思ったから素直に謝ったのに――。
「姉さんって、やっぱり分かり易い」
と言って今度は光星がクスクスと笑い出す。
ムっとするけど、今日の私は何を言っても勝ち目がない。
「どうせ、私は分かり易くて単純ですよ」
「ま、こう言っても、俺たち長い付き合いだしな」
「…そ、それは生まれた時からずっと一緒だけど…」
「それを言うなら、生まれる前から一緒だろ!」
「――っ!!!!」
それは、ほんの少し――数時間だけ私が咲きに生まれて来たからで。
同じ空間を、私と光星は約10ヶ月間共に居た。
「まさかと思うけど、これからも一緒とか言う?」
「当然!」
「光星ってシスコン?」
「あれ?知らなかった?姉さん」
「……っ」
自分で訊いておきながら、言葉に詰まってしまった。
光星はからかい混じりの声で話しかけてくる。
「俺はシスコンで、姉さんはブラコン」
「!」
「いいんじゃない?俺たち双子だし」
「あ、あのね…、いつまでも一緒っていう訳には…」
半ば呆れた口調になってしまっている私に対して、光星は顔が見えなくても分かる、とても上機嫌だ。
「離れないさ。姉さんがお嫁に行っても、嫁入り道具に俺も入ってるから」
「…?――っ!!!!!」
本当に驚いた時って、言葉も何も出ないって言うけど、今この時この場で体験するとは。
「姉さん?」
「あ、あ、あ、あんたねぇ…。冗談はやめて!」
光星は楽しそうに、あはははって笑う。しかも「腹が痛くて運転出来ないってー!」とまで言う。
何だか今日の私はやられっ放し。でも、このまま引き下がるなんて姉として出来ない!
「わ、分かったわよ!光星!!」
「何が?」
「私が嫁に行く時は、あんたも連れて行く!」
「えっ?!」
「あんたが先に言い出したんだからね!!」
「へぇ、姉さんって、結婚願望あったんだ」
さらに「楽しみだね、そんな日が来るのが」と言う始末。
ムカ~~~っ!!!
光星のヤツ~~!ああ言えば、こう言う。
私だって、これでも女の子。
綺麗な宝石を散りばめた白いドレスに憧れはある。
そう、こんな満点の星空のように、煌くドレスと来て――いつか、私が……。
「見つかるって!姉さんが良いって言うヤツ」
「見つかるって!弟付きでも良いって言う人」
タイミング良く、そんなセリフをお互い口にしていた。
そして、一緒に笑う。
傍から見れば、なんて馬鹿な姉弟なんだろう。
でも、もうこれ以上笑えない!というぐらいお腹の底から笑う事が出来た。




