【29】7月28日+千星④
「それ以来、オレ、その人の事気になって…。男として見られてたのかな?って」
「………」
「――千星先輩?」
「え?あ、うん。何でも、何でもない!――って言うか、それ、私だったの?」
マコトが話した私との出会いをどうしても思い出す事が出来ない。
すっかり記憶が飛んでいってしまっている。
「あの時の先輩も今と同じで強かったです!」
思い出の中の私と今の私を思い浮かべ、マコトはニコっと笑ってみせる。
だから、余計に私は焦ってしまう。
その笑顔、不思議ともっと見ていたい、と――。
「――先輩?、千星先輩?」
「え?た、たぶん、憶えてないから、たぶんだけど…」
私が言った“見掛けで…”というのは“小さい子”の事だと思う。
男の子とか女の子とか、気にしてなかったと思う。
何年?と訊いて、まさか“5年”と返ってくると思ってなくて…。
だから、“小さい子”なんて言って――。
「だから、ごめん!」
「別にいいですよ。むしろ、気にした結果、こうして先輩と――」
マコトは一呼吸置いて、言葉を繋ぐ。
「こうして先輩と――これからも一緒に居たいんです」
思わず、隣に居た光星に目線だけで助けを求めてしまう。
私にだけ分かる小さな溜め息を付いて弟はこう言った。
「いいんじゃない。俺たち、友達だし」
「と、友達?」
こ、声が裏返ったじゃない!!何を言うかと思えば!
「マコトもマサミチさんもマサトモさんも、大河さんも友達だろう?――姉さん」
友達って、マサミチさんやマサトモさんはいくつも年上で、大河さんは親子ほどの年の差…。
そんな光星の言葉を聞いて、マコトは「友達か…、嬉しいです」と暢気な事を言っている。
もう、忘れたの?
あの終業式の日の事を。
私、自分で言うのもおかしいけど、結構酷い事言ったと思うんだけど。
だから、私も私なりにかなり落ち込んだのよ!
なのに何だかそれって、私の一人負け?悔しいじゃない!!
「そ、そうよ!!友達!!これからは、友達としてビシバシいくからね!!」
「千星先輩、これからも宜しく!!」
差し出されたマコトの右手を、私は力強く握る。
経緯はどうであれ、真夏の夜空の下、私とマコトは――。
先輩後輩から、友達同士になった。




