【25】7月28日+双子
* * *
小さい頃から、母さんは光星を褒める。
小さい頃から、父さんは姉さんを褒める。
「もう少し、器用に出来ないの?千星は…。光星を見習いなさい」
「集中力が無くて飽きっぽいな、光星は…。千星を見習いなさい」
それが、母さんの口癖だった。
それが、父さんの口癖だった。
私と違って、光星は何事も器用で全て上手く取り成していく。
俺と違って、姉さんは何事も一つの事を出来るまで努力する。
人とは否応にも、他と比べられて生きていくものだと解っている。
人とは否応にも、他と比べられて生きていくものだと知っている。
それが私の場合、あまりにも身近にその対象が居たという事。
それが俺の場合、あまりにも身近にその人物が居たという事。
(比べないで!)
(比べるなよ!)
と思った事もあったけど、母さんは「誰もが完璧という事は無いでしょう、光星を助けてあげなさい。貴女が姉なんだから」と言う。
と思った事もあったけど、父さんは「誰でも得手不得手があるんだから、千星を護ってあげなさい。お前は男なんだから」と言う。
私が頑張れば、光星の為になる?
俺が頑張れば、姉さんの為になる?
うんっと頑張ってみよう!私が、いつも助けてあげれるように。
うんっと頑張ってみよう!俺が、いつも護ってあげれるように。
* * *
「――光星」
「…姉さん」
詰まると所、これって…、親の教育方針?
「何か、騙されてたみたい…」
「俺も…」
お互いがお互いを想うように――そんな親の意図が見える。
「これって、やっぱり、親心?」
「放任主義だとばかり思ってたのにさ」
共働きの親を持つ、双子の姉弟の私達。
仕事優先で、家の事や子供の事なんて二の次だと…。
しかも、今の今になって知ってしまうなんて。
逆に今だからこそ分かる親の気持ち。
安心して、仕事が出来るようにと、姉弟が仲良く協力し合えるようにと。
「父さんと光星が、そんな話してたなんて知らなかった」
「俺も。姉さんと母さんが……、気付かなかった」
二人して、ふぅーっと息を吐き、光星が口を尖らせる。
「俺、姉さんの事、バカになんてしてないかなら!!」
「……ごめん」
「結果的には、俺より出来るくせに、こっちの身にもなってくれよ!!」
「…ごめん」
態勢逆転。
素直に謝る私に光星はニヤっと笑って――。
「勉強は姉さんの方が出来るけど、料理とか家の事は俺の方が上手いもんな」
………、それって、私が男で光星が女なら良かったんじゃないの?
喉元まで出掛かった言葉をグッと飲み込む。
だって、そんな事を言ったら、落ち込むのは私?それとも光星?
い、今に見てなさい!!!料理だって、負けなんだから!!!
生まれ持った闘争心に、火が点いた――。




