【23】7月28日+千星①
「千星ちゃん、冷たい麦茶は如何かな?」
「うん」
「千星チャン、アイス食べる?」
「うん」
「千星子!晩飯、食べていけ!!泊まっていけ!!」
「……“千星”だってば…」
真理さんが、冷たい麦茶を淹れてくれる。
真智さんが、アイスの蓋を開けてくれる。
大河さんが、好きな食べ物を訊いてくる。
すっかり、姫野家の皆さんと仲良く――なったと言っていいのか、どうか…。
奥の部屋の上座に勧められ、アイスをご馳走してくれる。
しかも、誰がどこで買ってきたのか“味噌アイス”…。
これが、また意外と美味しいじゃない!!
「千星先輩…」
「――ご、ごめん」
マサミチさん達が部屋を出て行ってしまった。必然的に姫野と二人になる。
少し呆れ顔の姫野に名前を呼ばれて、思わず手を合わせて謝ってしまう。
この姫野家の玄関を一歩踏み込んだ瞬間から、私の脳内では大河さんをセントバーナードに。
マサミチさんを、アフガンハウンドに。
そして、マサトモさんをレトリバーに変換してしまい、無遠慮にじゃれ付く犬達を、ここはビシっと窘めてしまったと言うか…、何と言うか…。
「千星先輩」
「だから、ごめんって」
「そうじゃなくて――穂高先輩の事はどうするんですか?」
「………」
完全に呆れかえった顔をされてしまったては、何も言えない。
「喧嘩ですか?あんなに仲が良いのに」
「………」
あの刺々しく嫌味にしか聞こえないんだけど!!――って、嫌味か。
姫野にしては、えらく強気じゃない?何か吹っ切れてような印象を受けてしまう。
「穂高先輩にも、ちゃんと“ごめん”って言えますよね?」
「…わ、私が、悪いって言うの?」
「じゃあ、穂高先輩が悪いんですか?」
「………」
何も答えない私を余所に、姫野は携帯で話を始める。勿論、相手は光星だ。
いつの間に、連絡先なんて教え合ったのよ!
(私だって、まだなのにっ!)
最後に姫野が「すぐに迎えに来て下さい」なんて言うから、私は迷子か?と言いたくなった。
5分後。
「ご免下さい」
と玄関先で、光星の声。
(早っ!!!)
まだ心の準備も、頭の中でのシミュレーションも済んでいないというのに。
こう言われたら、こう切り替えして…とか、色々あるでしょう!!
「あ、穂高先輩だ。ちゃんと仲直りして下さいよ」
と言い残して、部屋を出て行く姫野。
その彼の背に「分かってるわよ!!」と言葉にせず口だけ動かした。




