【21】7月28日+真実①
「姉さんっ!!」
オレの後ろから声がした。
今、目の前に居る人を“姉さん”と呼ぶのはこの世界でただ一人。
(穂高先輩…!)
千星先輩の表情が強張っていくのを見て取れた。
だから、オレは思わず千星先輩の手首を掴んで、公園の抜け道に向かって走り出していた。
オレにとっては見慣れた場所だけど、先輩と一緒というだけで違う景色に見えてくる。
細い路地を走り抜け、着いた場所はオレの家。
「先輩、大丈夫ですか?」
5分も走っていないから、オレは息は上がってないけど、千星先輩は少し苦しそうにひと言「大丈夫…」と返してくれた。
「そ、それより…、手!手を放して…」
「あ!」
確か、オレは手首を掴んだはずなのに、いつの間に手を繋ぎ合っていたんだろう?
放して…と言われながらも、手の力を抜くタイミングを伺っている。
ぎゅっと繋いだ手は、どこか放し難いというか…。
「す、すいません…」
そう言って、先に手を緩めたのはオレの方。
汗ばんだ熱い手のひらが、一気に冷めていく。
「えーっと、ここ、オレの家なんですけど…。考えが纏まるまで上がっていきませんか?」
改めて何が有ったかなんて、訊かなくても…。
あの穂高先輩と千星先輩を見れば、ただの姉弟喧嘩じゃない事ぐらい分かる。
千星先輩は、オレの家を見上げている。
有り触れた住宅地にある、ごく普通の一戸建て。
「――何か、冷たい物でもくれると…、助かるんだけど…」
「勿論、いいですよ。冷蔵庫に――」
冷蔵庫の中を思い浮かべながら、玄関の戸をガラガラっと引き「ただいま」を告げる。
「あーっと、掃除とかしてないから、汚いけど、あの~、適当に…」
「…お、お邪魔します」
「今日、オヤジと兄貴達は居るけど、その~、適当に…」
「………」
千星先輩の目には、何か覚悟みたいな力強い意思が宿っていく。
「あ、あの~、大丈夫ですか?」
「あ、あ、あ、当たり前でしょ!!今さら逃げも隠れもしないわよ!!!」
半ば自棄になった先輩の言葉。
逃げも隠れもって、誰から?穂高先輩から?オレから?それとも――?
「おっ、お邪魔します!!!!」
まるで道場破りにでも来たのかと思うほどの気合の入った声が家中に響く。
本当に今から、決闘でもするんじゃないかと…。
「お帰り~、マコ~、遅かったな~、買ってきたか~?麺つゆ~!――お、友達か?」
間延びした語尾――オヤジだ。
「うおぉぉぉ~~~!!!美人じゃ~~!!!タイプじゃあ~~~!!!」
ドンドンと足音を立てて、オヤジが向かって来る。
「ひっ」と小さな悲鳴を発するが、構えは完璧!隙が全く無い千星先輩。
今、まさに、オヤジと千星先輩の闘い(?)のゴングが鳴った――。




