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【20】7月28日+②




身体中の水分が飛んでしまいそう。


頭の中は真っ白で、重い足取りで公園で唯一日陰になっている木下のベンチに崩れるように座る。



(この公園、久し振りに来た…)



公園は誰も居ない。


隅にあった遊具は動かないように固定され、その隣にあったはずの遊具は撤去されている。


あの頃は広く感じた公園も、大人になるにつれ小さく狭く感じるものなのに、とても静かで寂しく見える。


俯いてベンチに座る私の前を影が通り過ぎようとしてる。



「あれ?」



その影が、私の前で止まる。



「千星先輩…?」

「――っ?!」



ぱっと、顔を上げて確認する。


そこに居たのは、姫野真実。買い物袋を片手に、Tシャツにカーゴパンツ姿で立っている。


柔らかそうな茶髪は、真夏の太陽の日差しのせいで、さらに色薄く光って見える。


目も、最後に会った日に見た哀しげなものではなく、いつもと変わらない。



「先輩?何か…あったんですか?」

「え?」



何か?って、何?


どうして、分かるのよ?



「あの…、肩、見えてます。上着、きちんと着た方が…」

「!」



キャミソールに一枚パーカーを羽織った姿。


無我夢中で走ってきたから、気付かなかった。


私は慌てて、着直す。


前を深く重ね、立ち上がる。



「ひ、姫野…、何も無――!!」



“何も無い”と言ってすぐにこの場を去ってしまえば、それでいいと思っていたのに、姫野の肩越しに息を切らせて駆けてきた光星が見えた。



「姉さんっ!!」



思わず、一歩下がる。


逃げる?また、走るの?でも、何処へ?


光星は近付いてくる。


私は、私は――。



「千星先輩、こっち!!」



(え?)



姫野は私の手首を掴んで走り出す。


え?でも、そっちには出口は、無いはず。


姫野は公園の花壇を跨ぎ、植え込みの木の間をすり抜けて行く。


きっと、多くの人が通っているんだろう。


道が出来ている。


後ろで光星が私の名を呼んでいる。姫野の名も呼んでいる。


でも、私も姫野も振り向かなかった。


路地裏へと引っ張られる。ただ転ばないように付いて走るだけで精一杯。



「この道、近道なんです」



姫野は走りながら話しかけてくる。


私は、ただ小さく頷く。


不安とか心配とか怖いとか、何も感じなかった。


私は、私をあの場所から連れ出してくれた姫野の手の熱さだけを感じていた。




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