表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/84

【16】7月20日+②



残されてしまった、私と姫野。



「先輩、帰りましょう」



にこっと、微笑む姿は可愛い。


邪気が無い。


本当に主人に忠実なわんこだ。


私が動かない限り、この場に立ち留まる事になるのは明白で、取り合えず学校を出る事にする。



「ちゃんとお礼もしたいので、何か食べたい物とかあれば、言って下さいね」



楽しげに話してくる、姫野。


むしろ、私のスパルタ指導に付いて来た姫野は凄い訳で“ご褒美”と考えれば、少しぐらい付き合っても…。


真昼の太陽がジリジリと、私と姫野を照り付けてくる。



「夏休みに決まってる予定とかありますか?」

「ん?そうね…。夏期講習に行くわ」

「そうですか…」



今年の夏休みは、五十鈴は家族と旅行。しかも、白澤家と一緒に。


去年、二人だけ留守番だったので「絶対、連れてって~!!」と要求したらしい。


つかさもお祖母さんの家に行くとか。


そんな事を思いながら歩いている。


ふと、隣を歩いていたはずの姫野が居ない事に気が付いて、振り返る。



「どうかした?姫野。――あ、あそこにコンビニがあるから、何か買って飲まない?」

「――千星先輩…」



いつになく、神妙な顔付きで私を見上げてくる。


心臓が、トクトクと打つのが聞こえてきそうな…。



「なに?」

「………」



その目は、何なの?――少し…、怖い?



「――先輩は、オレの事、好きですか?」

「!」

「――好き…ですか…?」



1度目は真っ直ぐ私を見て、そして2度目は目を伏せて。











人気の無い住宅街の路地に二人。


真上から灼熱の太陽の光を浴びて、私は姫野から答えを求められている。



「…好きというより…、姫野は後輩。だから…、私は先輩後輩のままの方が…」



姫野は何も言わず、黙って聞いている。


私の声はそれほど大きくない。聞こえてる?と言いたくなる。



「もう、無理して私の前に現れなくてもいいんだよ」

「そ、それって、オレの事、視野にも入れたくないって事?」



姫野の声は、すごく掠れて聞き取れない。


そして、胸の奥に広がるこの息苦しさは何?



「ち、ちがっ!そういう意味じゃなくて!姫野が私の事を見たくないんじゃないかと…」

「オレは、オレは!――ずっと、貴女を見てきたのに!!」



その言葉は、耳にではなく心に響く。


息苦しさが増して、呼吸してるのか、していないのか…。


だから、そんな目で私を見ないで!!



「――ここ(・・)まで来たんだ!そう簡単に引き返せる訳無いっ!!!」



そう言って、姫野は私をぎゅうっと抱き締める。


それは、ほんの一瞬の出来事で――。



「――!」



何か言おうと思っても、喉はカラカラで言葉は失われていく。


姫野は、踵を返して走り去って行く。


立ち付くしかない私の足元には色濃く残る自分の影。


私の心にもとても小さいけど、影は色濃く現れてしまった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ