【15】7月20日+①
終業式も終わり、たくさんの課題と成績表を鞄に入れて席を立つ。
すっかり梅雨も明け、空は一段と青く、雲は白さを増していく。
明日から夏休み。
皆とも気軽に毎日会えなくなるから、何となく「この後、どうする?」という雰囲気が流れている。
つかさと一緒に教室を出ると、五十鈴が廊下で待っている。
「どこか、寄って行く?」
と五十鈴に声を掛ける。
「ごめん、千星ちゃん。今日は早く帰って来てってお母さんに言われているの」
と本当に申し訳無さそうに言うので、どうして?とは訊き難いというか…。
「――それにしても、光星のヤツ、遅い!」
なかなか現れない弟の話にすり替える。
「あら?ご存じないの?千星さん。穂高くんは彼女と先に帰ったわよ」
(…はぁ?つかさ、今、何て言った?)
つかさは私の驚いた顔を見て、もう一度同じ言葉を言う。
「だから、穂高くん、彼女と先に帰ったわよ」
「へ?光星くんが…!かの…じょ…!えぇぇ~~~っ?!」
「っ!!!」
光星に彼女が居るっていうのにも驚いたけど、今の私は五十鈴の驚いた声に驚いてしまったという方が正しい。
「知らなかったの?」
と至って冷静に言うつかさは「5月の連休明けから付き合ってるのよ。6組の藤木ひとみさんと…」と続けて話す。
「し、し、知ってたわよ!!!」
ここは姉として立場上、知らないとは言えなくて、嘘を付く。
帰って来たら、とことん追求してやる!と心の中でメラメラと燃え上がるものを感じてる所に――。
「千星先輩~~~!!」
この声!遠くから響き渡ってくる。
すっかり、私の周りの人間もこの声に慣れてきて、廊下を駆けてkるその声の持ち主を、この場に居るクラスメートも微笑ましく見るようになり、先生すらも「今日も、頑張れよ~!」と言う始末。
(先生…、私は――)
言葉が出ない。代わりに出るのは溜め息ばかり。
そして、こちらに向かってくる姿は、完全に可愛い子犬のよう。
テスト勉強を教えたのが原因なのか、すっかり主従関係が成立してしまったようで…。
「先輩!コレ!コレ見て下さい!」
今日もとっても元気な姫野は、私の前までやって来ては鞄の中から白い紙を出し見せ付けてくる。
「?!――何よ、成績表じゃない」
少しうんざり気味に答えてみる。
「えーっと、見て欲しいのはココです!」
指された箇所に目をやると、期末テストの点数が記入されている。
「…あ!」
「凄いでしょう!千星先輩のおかげで、こんなに良い点数が取れましたっ!」
全て80点以上。
そう言って、目一杯笑顔で敬礼される。
「ま、私が教えたんだから、当然よ」
「これで、追試も補修も受けずに済みます!――千星先輩!一緒に帰りましょう!途中で何か食べてましょう!オレ、もう腹ペコで…」
はぁ?何をいきなり!!
何で、私があんたと一緒に帰ったり、食べたりしないといけないのよ!!
きっと、私の眉間には思い切り皺が寄り、困惑の表情になっているはず。
なのに――「あら、良いじゃない。姫野くんに頑張ったご褒美をあげなさいよ、千星さん」と言うつかさ。
「さぁ、五十鈴さん!早く帰るように言い付かってるのでしょう。途中まで一緒に帰りましょう」
五十鈴の背を押して、つかさは「では、ごきげんよう」と言って帰って行ってしまった。




