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魔女的エクアージュ~失恋した腹いせに世界を破滅させる物語~  作者: ゆいレギナ
二幕 共闘尾行

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20/131

秘密の下は紫だった



 ◆ ◆ ◆



 そして、エクアの天井が黒から青に染まり直した頃。


「テメェ誰だよっ!」


 ユイは待ち合わせ場所で、タカバの肩を叩いた。

 すると、開口一番そう言われたのである。


 エクラディア学園の周りに広がる、首都エクバタ。

 市民がよく利用する住宅区域内の繁華街には、白いレンガが引き詰められた、風情溢れる街並みが広がっている。頭上高くを走るモノレールで繋がれた先のビル群が、選ばれた人しか入れない企業区画や公務区画。少し離れたその特別な区域に立ち並ぶ高いビルにも負けず劣らずの高い建物が、住宅区画の中にもそびえ立つ。


 天まで届きそうな白い塔は、エクティアタワーと呼ばれているものだ。白い網目で囲まれた透明な三角形の塔は、エクバタの通信電波の主塔。ただ、役目はそれだけでなく、下層部ではレストランやちょっとしたショッピングモールとして観光名所にもなっている。


 そんな明るい世界を見上げる薄暗い路地裏には、表の世界には似合わない人々がたむろしていた。ひもじい顔をして、ユイに何かを求めるように骨ばった手を上げてくる老婆を一瞥しながら、ユイは金髪(・・)をさらりと掻きあげた。偏光サングラスを少しだけ下げて見たタカバは、驚きと呆れが半々といった顔をしていた。


「黒髪のまま尾行したって、すぐバレるに決まってるでしょ?」

「そりゃそうだけど……テメェ、趣味悪くね?」


 タカバの言葉に、ユイは今一度、自分の恰好を確認してみる。


 艶やかな発色のピンクのミニスカートに白いタンクトップ。首には奇抜なストールを巻いて、顔にはサングラスをかけている。そして、金髪というよりも、真っ黄色のカツラ。

 派手だった。だけど、これはユイが意図した通りでもあった。


「私だとバレないことが、一番大事よ。尾行がバレても逃げればいいだけだけど、誰だかバレれば後が怖いもの。あんた分かってる? あのルキノを敵に回すのよ?」


 ユイはタカバの顔を指差す。彼はゴクンと唾を飲み込み、唇を絞めた。


「あらぬ噂を立てられて休学になるくれぇ、覚悟してらァ」

「退学にならないと、いいけどね」


 一方、タカバは、タカバらしい動きやすそうな私服で、可もなく不可もないタカバそのものだった。何しろ、ユイが一目でタカバだとわかったくらいである。


 ――まぁ、こいつがバレたところで、適当にシラを切ればいいか。


 ふと、ユイはタカバが脇に抱えているものに気づく。白くて細長い、楕円形の板だった。


「その持ってるのは、エアボード?」


 尋ねると、タカバの顔色は一気に明るくなった。


「おうよ! 逃げ足なら任せとけ!」

「自分しか逃げられないじゃない」

「自己責任だろォ?」


 勝ち誇ったように言ってくるタカバに、何か言い返してやろうとした時だ。

 ユイの首に巻いていたストールが、枯れ枝のような老婆の手によって引っ張られる。ユイは何も言わず振り払うと、老婆は簡単に尻餅を付いていた。


 ――恨まないでよね。


 物乞いにはキリがない。ユイの胸が痛まないわけではないが、誰かの代わりに不幸になるつもりもない。

 その様子に顔をしかめて見ていたタカバが、小さく舌打ちする。


「……オメェ、なんで待ち合わせこんな場所にしたんだよ?」

「んー、バレなくていいかなって思ったんだけど……さすがに長居はしない方が良さそうね」

「そんな所でオレ、けっこうな時間待ってたんだけど?」


 言われて、ユイは腕時計を見る。今がちょうど、待ち合わせしていた時刻ピッタリだった。

 ユイはタカバの顔を見上げて、苦笑する。


「結構真面目なのね、あんた」

「うっせェ!」


 タカバが拗ねてそっぽを向いた時だった。光が照らす通りの真ん中を、通り過ぎていくターゲットを二人は見かける。喫茶店から出てくる美男子が手をあげると、遠くから走り寄る少女へと微笑んでいた。


 少女の服装は優しい色合いのワンピース。裾に少しだけレースが付いているような、彼女の可愛らしさを清楚に引き立てている。一方、美男子は制服とはまた違う、爽やかな白いシャツをルーズに着こなしていた。細身のズボンが、彼の足の長さを際立たせる。


 ――むかつくほど、カッコいいわね……。


 ユイは物陰に隠れるようにそれを見つめながら、自分のわざとらしい金髪のカツラに触れる。

 彼の髪の色は、同じ『金髪』と称されるものであっても、まるで違うから。


 二人の会話は聴こえない。だけど二人は、楽しげに笑っている。


 空が青い。それを強調するかのように低く造られている白を基調とした街並みは、ただ彼らを引き立てる背景でしかなかった。点々と街を覆う鮮やかな緑に負けないほど、彼らは光を味方とし、輝いているように見えて、ユイには凄く眩しかった。思わず、目を瞑りたくなるほどに。


「メグちゃん……可愛いなぁ……」


 タカバの声に目を開くと、隣の大男はうっとりと彼らを見つめている。


 ――私服のメグが見たかっただけじゃないでしょうね……。


 呑気に見惚れているタカバに辟易してユイが口を開こうとした時には、ターゲットはゆっくりと目的地へ歩き始めていた。なので、ユイはタカバの腕をピシッと叩く。


「とりあえず、後を追うわよ」

「あ、あいつらどこに行くんだ?」

「とりあえず、ランチまではお買い物をするみたい」


 ハッとするタカバに、ユイは口角を上げて、サングラスを掛け直す。


 ――つまり、あの可愛いお洋服が、どうなったっていいわけよね。





 途中の柱に隠れながら、ルキノとメグの後を追う。適度な間隔。それがまた難しい。


「もう少し近寄ろうぜ。なに話してんのか、聞こえねェよ」

「馬鹿。ルキノもだけど……メグの勘も怖いじゃない」

「メグちゃんが?」


 半信半疑な声に、ユイはタカバの顔を見た。じっと、メグのことを見ているようである。

 彼らとの距離が少し開きすぎたので、またユイは歩を速めながら、


「そうよ。個人対集団訓練でも負けなしって、あんたも知ってるでしょう? 殺気とかいうのが、読めるんだって」

「殺気とか、そんな物騒な言葉使うなよ。メグちゃんに似合わねェーだろーが」

「じゃあ、なんて言えばいいのよ?」

「……乙女のシンパシーとか?」

「あんたがシンパシーなんて言葉、知ってたことに驚きだわ」


 タカバから出た思いがけない単語に肩をすくめていると、ユイの目的の場所はすぐそこだった。

 細い路地と交わる場所。ルキノはエスコートのつもりであろう。道の端にメグが来るように、二人は歩いている。つまり、路地に近い方に彼女がいるのだ。


 ユイは唇を尖らせて、ピューと口笛を吹いた。すると、路地から地面を這うかのような塵風が吹き荒れる。


「きゃぁっ!」


 メグは全身埃に包まれながら、懸命に持ち上がろうとするスカートを押さえていた。しかし、前を押さえたがいいものの、スカートの後ろは大きくめくりあがる。


「大丈夫かい⁉」


 ルキノも埃で咳き込みながら、大きな声でメグの心配をしていた。

 メグは重力に従うようになったスカートを払って、なにやらルキノに尋ねたようだ。それに、ルキノは小さく首を振って、何やら提案しているようである。すぐそばの女性洋服店を指差していた。どうやら、埃まみれになったメグに、新しい服を買ってあげるようである。


 ――ふふ、完璧!


 その全てが、ユイの予定通りだった。そして、彼らはその店に入っていく。


「さて。奴らが出てくるまで、私たちは待機してましょうか?」


 ユイは横にいるタカバの方を見ると、彼は耳まで真っ赤に染め上げて、固まっていた。


「め……メグちゃんのパンツが、紫だなんて……」


 ユイは唖然としているタカバに嘆息する。そして「いいモノ見られて良かったじゃない」とほくそ笑みながら、ワナワナしている彼の手を、風の吹いた路地裏まで引っ張って行った。





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