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後編。首謀者からのメッセージ。そして翌朝。

「大丈夫? Pさん?」

「あ、ああ。ちょっと熱くて、背中と後頭部がちょっといたいけど、

命に別状はない」

 

「そう。それなら、いいんだけど。ところで。

チョコ、一つだけ残ってるんだけど、食べる?」

 あお巳は、ガサゴソと懐から、他の詰め合わせ袋ほどの大きさの袋を

 取り出した。

 

「特大の奴なんだけど」

「ああ、腹減ってるしな。で、誰からのなんだ?」

「ん? リカネさんの。これはどうしても、Pさんに

食べてもらいたいって」

 その名前とチョコの大きさを見て、苦笑いするプライマル。

 

「俺に名指しか。いったい……なにを愚痴ってあるんだろうな?」

 リカネと言う存在の役割と、彼女の性格を理解しているため、

 自分に届けられているメッセージは、絶対に好意的ではないと

 わかっているのだ。

 

 

「じゃ、読むわね。太字で

『せ! め! て! 助! 手! を! よ! こ! せ!

過! 労! 死! す! る! わ! よ!

こ! の! ま! ま! じゃ!』

で、手紙の裏側全部に、『こんのバカー!!』、だって」

 

 裏側一面に書かれた言葉が、予想に反してかわいかったので、

 クスクスと、柔らかな微笑交じりに言うあお巳。

 

「つったってなぁ。コロコロちゃん以外の神様仲間を、

どっかの話で出せ、ってことだろう?

神様とか、ポンポン出せると思ってもらっちゃ

困るって」

 苦笑いでそういうプライマル。

 

 この青年が管理する無数の物語せかい、干渉することは可能なのだが、

 この青年の思うがままに、変化を及ぼせるわけではない。

 その世界に住む誰かから、プライマル側が観賞されることが必要で、

 その干渉をプライマル側が認識しなければ、

 世界の変化のスタートラインにすら、立つことは難しい。

 

 節操なしの扉神とびらかみといえど、その力は絶対的ではないのである。

 

 

「へぇ、ビターか。意外だな。よくある甘いのだと思ったから、

ちょっとびっくりした」

 一口食べて、プライマルは素直な感想を口にする。

「リカネさんの気持ち、そのものなんじゃないかしら?」

「リカネの気持ち?」

 

「ええ。不満はあるけど、Pさんの物語執筆せかいかんりの性質がわかってるから、

強制的に待遇改善させることもできなくて、煮え切らなくて苦い。そんなところかな、って」

「なるほどな」

「リカネさん。ああ見えて、人のことよく見てるし、優しいから」

 穏やかに微笑み、そういうあお巳に、「そうだな」と微小で頷く扉神。

 

 

「ほんとは、わたしたちも用意するつもりだったんだけど。

その前にリカネさんに呼ばれちゃって、用意できなかったのよね」

「そうだったのか」

「ええ。でも、用意できなくてよかった。もう、

チョコはしばらく見たくないもの」

 

「だな」

 そうして二人は柔らかに微笑んだ。

 

 

「二人だけほんわかしてないでよー!」

「手伝ってくれてもよいではないかー!」

「りくちゃん、くろたけちゃん。二人がやったことです。

すずめがお手伝いしてるんですし、それでいいじゃないですか」

 

「こんのいいこちゃんめ。食べちゃうわよ」

「やですー! 食べないでくださいー!」

「痛っ熱っ! 冗談! 冗談だって! 本気にしないでよ!」

「すずめのバーニングビンタは、熱痛かろうなぁ」

 

「そのネーミングセンスどうにかならないのクロタケ……」

「不満か? 今の」

「かっこ割るい」

「むぅ……」

 二人の丁々発止を、他の三人は笑顔で見ているのであった。

 

 

 

*****

 

 

 

 

「うわああああああ!!!」

 翌朝。

 世界中に響いてるのではないか、というほどのりくの大声が

 五人の暮らす家を震わせた。

 

「なんじゃ騒々しい」

「なっなんだどうした?!」

「りくちゃんっ! どうしたんですかっ!」

「なんとなく、理由はわかるわね」

 

 それぞれがそれぞれのリアクションで、音波平気のぬしこと

 白走りくしろばしりりくのいる脱衣所に集まった。

 

「あ、ああ。あああ……」

 四人の存在などまるで目に入っていないらしく、

 ガクガクと小刻みに震える、猫耳猫尻尾の白虎娘の姿が、

 そこにはあった。

 

「どうしたの、りくちゃん」

 綺麗な腰までのストレートロングヘアになっているあお巳が、

 穏やかに問いかける。

 

 帽子の庇のようになっていた前髪は、真ん中分けになっている。

 寝癖になると、たとえ分けても止めても、戻ってしまうので、

 悪あがきしないことにしているのだ。

 

 

「た、たた。たた。たいじゅ……たいじゅうが……」

 りくは、未だに恐怖にガクガクと震えながら言葉を発した。

 あお巳の問いに答えているのか、うわごとなのか、

 判別できないようなかすれた声だ。

 

「たいじゅうが……よんきろも……ふえ……あああああ!!」

 再び絶望の叫びを上げるりくに、全員でひとこと告げた。

 

「ご愁傷さま、りくちゃん」

 一人は柔らかに。

「ごしゅうしょうさまです」

 一人は本当に気の毒そうに。

 

「あれだけ食うたらのう。だから言うたのじゃ。

しっぺ返しはぷらいまる殿からだけではないぞ、とな」

 一人は憐れむように。

 

 そして。

 

「りく。お互い、地獄を逝こうぜ」

 一人は気遣うように。

 

 

 こうして、全てを破壊し全てを繋げし、祖となる扉神プライマルと、

 四神娘たちのバレンタイン騒動は、幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

                                                              おわる。

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