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89.増加傾向?

 商業都市ヴァナに向かう道中、イエナたちはモフモフに跨り街道とは少し離れた場所を走っていた。

 モフモフたちは、毛並みも走力も絶好調。人魚の村関係で思いもかけないお金が手に入ったことから、好みの果物をたっぷり仕入れられた。そのお陰で、彼らも機嫌が良いように見える。

 特にゲンはやる気満々で、カナタとのコンビネーションもバッチリだ。

 気配察知のスキルを持っているカナタと同じくらいの感覚で魔物の接近に気付き、イチコロリを構えるカナタのサポートをしている。


「ゲン、えらいぞー」


 先ほどもまた1匹をナイスな連携で仕留めたため、カナタがゲンをナデナデしている。まだちょっと自分に対してツンツンなゲンとのスキンシップを羨ましく思いつつも、イエナはイエナでやることがある。頼れるボディガードもっふぃーを労うことだ。


「もっふぃーも、いつもありがとうねー」


 イエナは今のところ戦う手段がない。そのためもっふぃーは万が一に備えて、上手に距離をとってくれているのだ。いつでもイエナがポーション類を投げて支援したり、ルームを出して逃げ込めるように。


(今のところそんな事態は起きてないけど、毎回ちゃんと絶妙なポジション取りしてくれてるんだもん。もしかしてうちの子天才なんじゃないかしら?)


 脳内で親ばかを展開させていたところ、カナタがちょっと不審そうに呟いた。


「なんか、魔物多くないかな?」


「言われてみれば……普段より戦ってる気がするかも? ちょっと待って。ドロップ品確認してみる」


 戦闘そのものはカナタたちに任せ、イエナは無事戦闘が終わったあとのドロップ品回収に勤しんでいる。そのため、今まで倒した魔物の数は大体わかるのだ。何せカナタの幸運スキルのお陰で魔物がドロップ品を落とさないことの方が珍しいのだから。

 ゴソゴソとインベントリの中身を見る。


「えーと……そうだね、昨日の約2倍くらい倒してると思う」


「2倍!?」


「うん、2倍弱。ほら、複数匹で現れた魔物もいたじゃない?」


「そういえばそうか。だとしても多くないか? イチコロリで倒せないヤツはいなかったのは良かったけど」


 今のところ戦闘で苦戦は一回もしていない。ちょっと数が多い時に手間取った程度だ。


「素材がたくさんっていうのは私的には嬉しいけどねぇ。街道から外れてるから魔物が出やすいのはそうなんだけど、だとしてもこんなにいるかしら? あ、そんなに連戦してるならイチコロリの毒針の残り、微妙じゃない?」


「あ、確かに。無意識にインベントリから補充してるから気にしてなかった。……ホントだ、いつもより減りが早い」


「あちゃー……じゃあ一旦引き上げる? 幸いポイズンスライムの毒はまだまだ在庫あるもの。ちょっと早めの休憩とりつつパパパッと作っちゃうわ」


「そうするか。ごめんな、ゲン、もっふぃー。まだ走りたいだろうに」


「メェッ! メェッ!」

「めぇ~~~~?」


 私はまだ走れます! 不満です! と目いっぱい主張して撫でろとカナタに頭をグリグリしてくるゲンと、よくわかんないけどどっちでもいいよーといった感じのもっふぃー。勿論、イエナももっふぃーを思い切り撫でておいた。たいへん癒しで賞受賞。

 そんなこんなで一旦ルームに引っ込む。

 モフモフたちを地下に連れて行ってから、リビングで軽く作戦会議を始めた。


「本日のドロップ品はこんな感じね」


 リビングのテーブルに布を敷いて、その上にドロップ品を並べる。


「いつもの一日の終わりと同じくらいある気がするな。……種類に偏りはなさそうだけど」


「あ、でもちょっと植物系ドロップ多めかな? ほら、薬草系や木材が多い」


「言われてみれば。でも、いつもこんなもんな気もするような……うーん」


「私たち普段から街道を外れて走ることが多いもんね。そうなるとどうしても草原だの森の中だのを走ることが多いから、いつも通りと言われればそうかも」


「でも、量が多いのはやっぱり気になるな……」


 テーブルの上にある量は、イエナが普段の一日の終わりの確認作業をするときと遜色ないくらいだ。やはり、倒した数は多かったのだろう。


「うーん、商業都市周辺だから、冒険者の数が少ないとか?」


 狩りをする人がいなければ、魔物も多少は増えるものなのかもしれない。


「どうだろうな。今の俺たちみたいに配達依頼を受ける人とか、あとは護衛なんかで結構いそうな気がするんだけど」


「あーそっか。依頼はお金のあるところに集まるだろうし。それに商業都市なら盗賊対策に傭兵とか多そう。……ってことはやっぱり狩りが追い付いてないってセンは薄そうだなぁ」


 特別強い魔物がいない、というのも気になる点だ。難なく倒せて良かったとは思うものの、何故こうなっているのかがわからず不気味だ。


「原因は思い当たらないけれど、ちょっとイヤな予感がするな。イエナ、申し訳ないんだけど、毒針作りついでに薬系の補充も頼んでいいか?」


「任せて! そのためのビジネスパートナーじゃないの。申し訳なく思わなくていいってば」


 イエナにはイエナの得意分野があり、それはカナタも同じだ。


「じゃあパートナーとして、美味い飯作りにでも精を出すかな。快適に製作やってもらいたいし」


「わーい、楽しみにしてマース。あ、でもその前に作る薬の種類の相談に乗ってくれる? まず毒針は量産するとして……」


「そうだな。まずイチコロリがないと俺たち話にならないから、たくさん頼む。あとは……うーん、何が起きてるかの予測がつかないから、回復系を一通り?」


 そう言われて、ドロップ品を見渡す。


「あ、じゃあ丁度良いわね。ドロップ品が役に立ちそう。こっちは麻痺治しで、こっちは眠気覚ましの材料だもの。毒消しは在庫まだまだあるし……。あ、これハイポーション作れるヤツじゃない? レアドロップなのか、ワンランク上の魔物を倒したのかちょっとわからないけど、良い感じ~!」


 改めて種類を確認すると、各種薬を作るにあたってうってつけのラインナップだった。特にハイポーションは今まで作ったことがなかったので、テンションが上がってしまう。

 今から作る薬が役に立つ事態が起きないのが一番ではあるけれど。

 ウキウキのイエナとは対照的に、カナタはちょっと難しい顔をしていた。


「……そう言われると、本当に植物系のドロップが多いんだな。果物や野菜もいくつかある」


「なんか閃いた?」


「いや、流石にないよ。何かのイベントの兆候とかでも思い当たるものはないし……。ほんと、何が起きてるんだ……?」


 カナタは難しい顔のまま考え込んでしまう。


「まぁまぁ。ここで考えてても解決しなくない? できることやろ! 私は製作頑張るから、カナタには美味しいご飯期待してるよ」


 イエナだって、ちょっとイヤな予感はしている。けれど、手元の情報がこれだけでは判断がつくとは到底思えない。だからこそ、努めて明るくカナタに話しかけた。


「それもそうだな。じゃあご飯作り頑張るか~」


 カナタも少し力が抜けたのか、フッと笑みをこぼした。

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