84.またね!
これにて三章完結となります!
これまで毎日更新を続けていましたが、三章完結記念で夏休みをいただきます
四章開始までブクマをして待っていていただければ幸いです
できたら評価も頂けましたら嬉しいです
「ねーマジで行っちゃうワケー? もっちょいゆっくりしてけばいーじゃん!」
もはや恒例となった尾びれビタンビタンをしながらリエルが言う。
本日はイエナとカナタが旅立つ日だ。お世話になった皆に挨拶回り、というか皆が海神の溜め息に集合しているような状況である。
「わ、私もまだ、教わってないことたくさん、ある……」
ミサは大きな目をウルウルさせてこちらを見ている。正直これにはクラッときた。思わず甘い顔をしそうになったところに、長老様の喝が落ちた。
「ミサはともかく、いい年したリエルが何ワガママ言ってんだい!」
口には出さなかったが、リエルもいい年なんだぁと思ってしまったのはナイショだ。ともかく、長老様のひと声で引き留めようとする流れが止まった。
「あんたたち、この村にきてくれてありがとよ。これは長であるあたしからの気持ちさね」
そういって長老様はなんだかゴチャゴチャっと色々入っていそうな袋を差し出してきた。
中身の見当がまるでつかなかったが、とりあえず受け取る。
「その中に入ってるのは、イキマモリの材料さね」
「えっ? いいんですか!?」
「さぁ、どうだろうねぇ。そもそも渡した前例がないからわからんよ」
「そもそもアタシらもどういう構造になってるーとかサッパリプーなんだよね、アハハ」
いきなり渡されたお宝級の代物にイエナは目を白黒させるが、長老様やリエルはあっけらかんと笑っている。こういうところが楽観的、と言えるかもしれない。
「材料はこの辺りの海底でも手に入るモノばっかりなのよぉ。でも、作り方とは全然知らなくってね。人魚の都があるんだけどそこにいる職人しか知らないの」
2人に代わってお姉さま人魚がおっとりと教えてくれた。
「必要になったら貰いに行けばいいしねー。作るって気にならなくってさ~」
「イキマモリは見本にひとつだけあんたらにあげようじゃないか。そしてそれを参考にして作ってごらん。あんたならきっとできるだろうよ。完成したら、そのうち見せにきておくれ」
「……ありがとうございます。職人としてこれ以上ないくらい嬉しい言葉です」
作った物が皆正しい使い方をしてもらえるとは限らない。イエナはロウヤに製作の現実と限界を教えられた。
けれど、長老様はきっとイエナはイキマモリを悪用なんてせずに作り上げるだろうと信じて渡してくれている。その上で、また遊びにおいでと言ってくれているのだ。
(絶対に、信頼に応えるんだから! また遊びに来たいもの)
今すぐ袋の中身を確認したい衝動に駆られるが、なんとか我慢して深々と頭を下げた。
「アタシらからもお土産あるんだ~。貰って貰って! イエナとカナタに一つずつね!」
ひょい、とリエルから手渡されたのはお世辞にもキレイとは言い難い黒ずんだ物体。よく見ればなんだか動物の指のようにも見えるが……。
「これ、もしかして亀の手の一種か?」
「カナタさん、よくご存じで。父もそんな風にこれを呼んでたので、たぶん合ってると思います」
ミサがカナタの問いを肯定する。
「しかし、なんだって亀の手なんか……」
「見てみてカナタ。これ、同じカタマリからとってきたヤツなんだけどさ」
そういってリエルが亀の手なるものを地面に置く。すると、亀の手は僅かだがカナタが持っている亀の手の方へと動き始めた。
「えっ、なんでだ?」
カナタが驚いているところを見ると、彼が知っているモノとは微妙に違ったようだ。
「へへへ。おもろいっしょ? うちらはコレのこと『離れん貝』って呼んでるんだけどさ。これをお互いが持ってたらなんとなく方向がわかるってワケ。あ、これの中身はもういないから適当な箱にでも入れとくといいよ。そしたら脱走しないから」
「これ、私も小さい頃に迷子防止のために持ってたんです」
ミサが懐かしそうに言う。しっかり者のミサが迷子になるとはあまり思わないけれど、ご両親の愛情がチラリと見えた気がしてちょっと嬉しくなってしまった。
「アンタたちがこれ持っててくれたら、アタシらも『あいつら元気に旅してんだなー』って思えるじゃん?」
「あと、これ魔力を込めると一回だけ鳴くんです。鳴いたあとは、もう動かなくなっちゃうんですけど……」
「あ、なるほど。離れてるときに緊急時のヘルプが出せるってことか」
「そんな素材があるんだぁ……ホント世界ってひろーい……」
聞いたこともない効果を持つ素材に感動しながら離れん貝も受け取った。イキマモリの時は袋に入っていたのでどうにか自制心を働かせられたものの、こちらは剥き出し。
思わずどうなっているのだろうとマジマジと見てしまうのは仕方がないことだ。仕方がないのだ。しかしながら、横のカナタから視線を感じる。
大慌てで言葉を紡いだ。
「分解とかしないからね!?」
「先んじて宣言するようになったのは進歩、か?」
そんなイエナの様子に、カナタは笑いを堪えている。
「逆に怪しくなーい? まぁさ、そっちがアタシらに助けを求めるってなさそーだし、どうやって陸に行けっつーの!? ってなるから、多分鳴いたとしたらアタシらが助けてーってなった時だとは思うんだけど! そーならないよう祈ってて!」
キャハハとリエルが笑い飛ばす。笑いを我慢されるよりはこちらの方が余程清々しい。そういうとこだぞ、カナタ。
「交易の話なら順調に進んでるから心配ないとは思うんだよな。このあとポートラの港町に寄っていく予定だから、進捗状況は俺たちも確認できるはずだ」
今はポートラの港町を中心に人魚の商品が棚に並べられている状況だ。
一度聞かせてもらい「これならば身バレしないだろう」という絶妙なぼかし具合になったジャントーニの歌も、それらの商品の素晴らしい追い風となっているとか。ポートラの港町には色々仕入れるためにそれなりに滞在する予定なので、ジャントーニの歌ももう一度聞きたいところだ。
「さて、あんまりグズグズしてると名残惜しくなっちまうよ。ほら、なんか言い残したことはないかいあんたたち!」
「えっとえっと……いっぱいありがとうございました! 私、イエナさんの図案、全部作れるようになります!」
ミサが決意の表情で宣言する。
「ミサならきっとできるわ。旅先でミサの作品が見れるのを楽しみにしとく!」
「あんたたちがセイジュウロウみたいなヘマするとは思わないけどね。陸がしんどくなったら海に来ればいいさ。あんたたちなら大歓迎だ」
「いやほんと、ヘマしないよう気を付けます……」
セイジュウロウの手記を読んだカナタは身につまされるようなことでもあったのか、神妙な顔をして長老様の言葉を受け取っていた。
「ねーマジで住むとかじゃなくってもさぁ、1年にいっぺんとか? 顔出してくれちゃっちゃっても全然オッケー! 大歓迎! だから、さっさとイキマモリ自力で作って遊びに来てよね。あ、近くに寄ったけどイキマモリ作れてないなら離れん貝に魔力込めてくれればいいし!」
絶対遊びに来てね、とリエルにめちゃくちゃ念押しされる。頷かなければ放さないとでもいうような勢いだ。
そんなリエルに笑顔で頷き、改めて人魚の村で関わった人たちに頭を下げる。
「お世話になりました」
「機会があればまたよろしくお願いします」
「それはこっちのセリフだってのー! じゃ、みんなでお見送り行こっか。イキマモリ持ち逃げ防止のためにもね!」
「それはしないって!」
人魚たちの笑い声が、いつのまにか声のそろった歌に変わっていく。海中に響く不思議で美しい歌声に背中を押されながら、2人は海の底を後にした。
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