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82.海賊船探索

 ひょんなことから始まった人魚の村との関わりだが、そろそろ幕引きの時間が近づいていた。

 不器用人魚リエルとの出会いに始まり、人魚の村が物理的に抱えきれなくなった海ウールの有効活用方法。そして作ったはいいが結局余ってしまいそうな海ウール加工品から、人間との交易が始まった。

 なんだかコトが大きくなりすぎて「いいの!?」と何度も思ったけれど、なってしまったものは仕方がない。別に後悔しているわけでもなし。

 だがそろそろ、本来の姿に戻っても良いのではないだろうか。

 そう、新しい景色を見るための旅へ。


「というわけで、お宝さがしね!」


「沈んだ船の中に入るって凄い体験してるな、俺たち」


 色々なことが一段落した今、イエナたちは旅立ちの準備を始めている。

 まずは、長老様から話があった沈んだ海賊船なるものを観光しにきたわけだ。ついでに役立つものがあれば儲けもの、といった感じ。長老様の許可もあるので誰かに怒られることはないものの、なんだかちょっとドキドキする。

 この海の底から見る景色もそろそろ見納めかと思うとちょっとかなりだいぶ名残惜しい。が、やはりまだ見ぬ景色とレア素材が自分を待っているかと思うと旅立たないという選択肢はなかった。

 何より、カナタの目的地はここではなく次元の狭間であり、ここは通過点というか、寄り道に過ぎない。


「沈んで長いみたいだな。書物系は多分もうダメっぽい。触ったら崩れそうだ」


「目立つキラキラ系はお姉さまたちが『粗方持って帰っちゃった~』って言ってたわよね。あ、でもこの意匠素敵。今度参考にしてみよう」


「こういうときスクショとれたら便利なのにな」


「なにそれ」


「えーと……見たものを平面でそのまま保存する技術的な」


 そんな会話をしながら、モフモフたちに跨って海中散歩を楽しむ。

 未だに泳げないイエナと違って、2匹は海中遊泳はもうお手の物だ。なんだか悔しい気もするけれど、嬉しそうに泳いでいるのでそれも良し。

 今後大きな川や湖に遭遇したときにこのスキルは活きるかもしれない。ただし、そのときには借り物のイキマモリは返却しているので、今ほど自由ではなさそうだが。


「あっねぇカナタ見て! クラシカルな宝箱再び!」


 船の中を隅々まで見回っていると、一番奥の部屋にセイジュウロウの住まいで見たような宝箱があった。


「お、ホントだ。鍵は……ないな。罠は俺らにはわからないから、念のため皆ちょっと離れてて。俺なら幸運スキルで何かあっても回避できると思うから」


 そう言われてもっふぃーとゲンを連れて、カナタから少し離れる。一応、何かあったときのためにインベントリからポーションなんかを出せるように心の準備をしたのだが……。


(……あれっ? 水中でインベントリから出すとインベントリに海水が入る? それに出せたとして薬って水中で効くのかな? 効かなさそう……ふむ、水中でも使える薬かぁ……)


 海中に住む人魚たちは怪我をしたときどうしているのか聞いてみるのもいいかもしれない。そんなことを考えてたら、難なく宝箱を開けたカナタから声がかかった。


「おーい、開いたぞー?」


「あ、ごめんごめん!」


 もっふぃーに助けられつつ、宝箱を皆で一緒に覗き込む。


「一回誰か開けてるみたいね」


 中身は割とスカスカだった。まぁこんなものかな、と思っていたのだが、突然カナタが大きな声を上げた。


「えっ!? マジか! すごい、イエナ! 見てくれこれ!!」


 興奮した様子で宝箱から何かを取り出し、こちらに見せつけてくる。カナタの掌にのっていたのは、少し大きめのサイコロだった。


「えっと、サイコロ? なんか賭け事でもやるの? ギャンブラーだし」


「そう! これ、ギャンブラー専用装備なんだ。やったぞ、イエナ。こんなところで見つかるだなんて思わなかった。これでダンジョンをスキップできる!」


「えっホントに!?」


 当初の予定では、この海に寄り道したらレベルを上げてダンジョンに潜る予定だった。なんでも、とあるダンジョンにギャンブラーには必須と言っていい装備があるらしい。

 ただ、そのダンジョンに行く、というのがこのカタツムリ旅に於いて不安要素が2つあった。

 1つ目の障害は、ダンジョン内でルームが出せるかわからないこと。ダンジョンとは要するに不思議空間らしく、同じく不思議空間のルームが出せる保証がない。ルームできちんと食事と睡眠がとれないとなると、旅の快適度は各段に下がる。

 もう1つは、ダンジョンには他の冒険者がいるだろう、ということ。できる限り目立ちたくないイエナたちの戦闘は、カワイイ2匹のモフモフたちの活躍が大きい。しかし、魔物使いでもない2人が強い魔物を従えているとなるとちょっと目立ってしまう可能性がある。

 これらの理由から、ダンジョンは行かねばならないができれば行きたくない場所だった。勿論、見学だけならばしてみたいけれど、お目当てのお宝を手に入れるまで潜り続けるのはちょっと難しそうというか。

 だが、それをスキップできるとカナタは言った。


「ホントホント。これがダンジョンで手に入れたかったお宝なんだ。ギャンブラーが装備するとクリティカル率が50%上がるっていう物凄いアイテムなんだよ!」


「えっ、すごい! カナタって幸運スキルがあるから、もともとクリティカル率とやらって高いんじゃなかったっけ?」


「そうそう! 良かった~。やっぱりダンジョンに行くのは不安だったもんな。これで別ルートで行けそうだ」


 ダンジョンをスキップするということは、この旅が更に短くなったということ。それは少し寂しいような気もするが、喜んでいるカナタに水を差すわけにもいかない。今、自然な笑顔ができているか少し不安になりながら、今後のことを尋ねる。

 すると、カナタは指を2本立ててこちらに見せてきた。


「選択肢は2つ。火山ルートと銀世界ルート」


「えっどっちも過酷そう……」


「どっちもメリットデメリットあるな。軽く説明すると……」


 火山ルートは、武器強化が目的。ドワーフの居住区に行き、鉱石を貰って最終武器を作る。上手くすればドワーフの技術も学ぶことができるかも、というのがイエナにとっては大きなメリットだ。

 逆にデメリットはとにかく暑いこと。そして、一部だがイチコロリが効かない敵がいるらしい。

 銀世界ルートは、情報収集が目的。というのも、セイジュウロウの手記にもう1人の転生者の事が示唆されていたらしい。また、メリットとしてはこの近辺では手に入りにくい氷の魔石がゲットできること。氷の魔石があれば冷蔵庫も作れるためカナタの言う「冷製パスタ」なるものなんかも作れて、今後の食生活がより豊かになるだろう。

 銀世界ルートのデメリットは無駄足になる可能性があること。セイジュウロウの手記だけが情報源のため、色々と未知数。あと、寒い。


「とりあえずどっちに行くにしてもちゃんと準備しないと道中しんどそうね」


「まぁ今回の海底旅のお陰で資金は恐ろしいくらいあるから……」


 人魚との交易の場を整えたということで貰った謝礼金と、今後の交易ごとに利益のウン%が商業ギルドの口座に入ってくる、らしい。あまり現実味がないけれど、そういうことになっている。なので、準備する分にはどちらでも問題ないのだが。


(う、うーん。旅が長く続けられるほうは銀世界ルートだけど、それってカナタの目的的にはどうなんだろう? あと冷蔵庫、作ってみたいっていう私欲が理由だとダメな気が……)


「メェッ! メェッ!」

「めぇ~~~!」


 決め手に欠いて迷っていると、突然2匹のモフモフたちが鳴き出した。

 そこでイエナはハッととあることに気付く。


「カナタ! 銀世界ルートじゃなきゃダメだよ! 私たちは暑さに服脱いで対策できても、もっふぃーたちはキツいもん! 氷の魔石で暑さ対策グッズ作らないと!」


「確かに! じゃあ、そっちに向けて今夜からルート詰めておく」


 こうして、鶴のひと声ならぬ羊たちのひと鳴きでルートは確定したのであった。


【お願い】


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