51.人魚と交渉
聞き取りを一段落させて、3人は話し合いのフェーズに突入した。
色々と質問をしまくってしまったリエルはともかく、特に何かをしたわけでもないはずのカナタもちょっぴり疲れているように見えるのは気のせいだろうか。
「えーと、とりあえずこんな感じで海ウールは使えると思うんだけど、これってカナタが知りたいことの交渉材料にならないかな?」
「うん、これメチャヤバなのはわかる。これがフツーになったら激ヤバだから、情報教えるのはアリよりのアリ」
「ほんと? やったねカナタ!」
どのような情報かは未知数だけれど、それでもないよりはあった方が良い。リエルの返事にカナタも嬉しそうな表情を見せた。
「あ、ちょ、まだ続きある! 聞いて!」
「なになに?」
「これって、イエナだからできたくない?」
「へ?」
一瞬何を言われたかわからずちょっとポカンとしてしまった。だがカナタの方はすぐに合点がいったようだ。
「それは、ないこともない。例えば海の底だと環境が違うからできないかもしれない、ということも考えられるだろ?」
実際には、リエルは「イエナというちょっと特殊なニンゲンだからこそできたのではないか」と言いたいのだが、そこをカナタが上手く変換した。
「確かに。私水の中で製作したことないからなんとも言えないわ」
「あと海の中じゃなくても、イエナほどの手早さで完成させるのは不可能だと俺は思ってる。イエナは熟練の職人だから。でも、時間をかければ誰でもある程度はできるようになるはずなんだよ」
この世界にきてから料理を始めたカナタが言うのだから、多分それは間違いないはずだ。
ちなみにだが、リエルのジョブは『人魚』となっている。それはジョブなのか、というツッコミをいれたいけれど、種族が異なるので根本的に違うのだろう。
ただ、リエルの器用さ自体は低くはなかった。恐らく何度か教えればできるようになるはずだ。これ以上、リエルのステータスを覗き見るのはマナー違反な気がするので見ないように努めている。
「んー……これさぁ、一回持ち帰ってイイ?」
リエルはカナタの言葉を聞いて暫く悩んだ後、そう口を開いた。
「持ち帰るって?」
「アタシだけであたるにはちょっと問題のスケールでっかくなっちゃったなーって。できるもんならイエナにやり方教えてもらいたいけど、アタシが壊滅的だったらキチィし。イエナに全部作ってもらうには対価のバランスヤバだしさぁ」
「あ、なるほど。村の人と相談する的な?」
人魚たちが来る日も来る日も駆除しまくってる海ウールの使用許可なんかを考えるならば確かに一度村に帰った方が良さそうだ。
「そゆこと」
「んー……俺は、その海の底にいた転生者の話がちゃんと聞けるならどちらでも」
「話もせずにバックレたりしないから安心して! 村の反対受けたらその場合はアタシが知ってることは全部教えるから。ただ、村のオッケーが出たらババ様からも話聞けると思うんだよね。そっちのが詳しいからカナタにとってもお得だよ」
「詳しい人がいるのか。なら、俺はそれで構わないよ」
「私もー。あ、できれば村の人がダメって言った場合でもお土産に海ウールがほしいです」
「……イエナ、ちゃっかりしてんな」
カナタに苦笑されてしまったが、リエルとしては全然オッケーらしかったので快諾してもらえた。むしろ厄介モノ引き取ってくれてありがとう、くらいの気持ちらしい。
「あ、それでさぁ。村の頑固者説得するために、転生者だって話しても平気?」
「えっと……」
「まぁそれで説得ができるなら。ただ、さっきも言ったけど転生者は俺だけだから」
イエナは一瞬返答に詰まったが、当のカナタはあっさりと承諾した。リエルはそんなカナタをマジマジと眺める。穴が空かないかちょっと心配になった。
「てことはカナタもどっか常識外れなトコがあるってワケね」
「なぁ、海の底行った転生者って何やらかしたんだ!? 風評被害ひどいぞ?」
「んと一言で表すと……どえらい女好き、かなぁ」
「えっ……」
思わずカナタを見る。転生者は女好きだとすれば、実はカナタもそうなのだろうか。そんな疑いの眼差しを向けるとカナタは思い切り慌て出した。
「イエナ、俺は違うからな!!」
「焦るところが怪しい気もするけど、まぁ大丈夫よ」
真の女好きであれば、こんな豊かなアレのどえらい美人さんであるリエルにもっとデレデレとするような気はする。評価は保留と言ったところだろうか。
何せ、おとぎ話の人魚は誰もが美女だと言われている。たまたまリエルがタイプじゃなかっただけで、別のタイプの美人が現れたら女好きが出てくるかもしれない。
「ホント勘弁してくれよ……」
「いやぁ、イイコンビねお2人さん。んじゃアタシはさっくり村の連中説き伏せてこよっかな」
「あ、待ち合わせ場所この辺でイイ? 時間どのくらいかかりそうとかもわかれば嬉しいんだけど」
「んー……一応2日貰っていいかな? 明後日の夜にもう一度ここに来るって感じで」
「カナタもそれで大丈夫そう?」
「うん、大丈夫。それなら明日はポートラの港町に向かうか。何があってもいいように調味料だけは確保したい」
そういえば今回の目的はカナタが熱望している調味料を手に入れることだった、と思い出す。人生初の海に、初遭遇の人魚にと驚きの連続で頭から抜け落ちていた。
「じゃ、2日後の夜にね。まったねー」
そう言ってリエルは元気に海へと帰っていった。
月明りの下、トプンと音をたてて海に潜り、その姿は見えなくなる。暫く待ってみたが戻ってこなかったことから、きっと海ウール75%のミニタンクトップでも問題なかったのだろう。
見送ったイエナとカナタはその場で何とはなしに顔を見合わせた。
「なんか……濃い一日だったね」
「凄く濃かった。まぁイベントは運が良ければ起きるかもって思ってたんだけど、こんな形だとは……」
「そういえば本来はどんな形だったの?」
「簡単に言うと、人間と人魚の恋の手助けをするんだ。それでお礼に……これはナイショにしておこうか」
「え~? 何よそれ! ズルい!」
「そうは言うけど、初見の体験は一度きりだぞ? ネタバレしちゃうと感動が薄れないか?」
「それもそうね……。うーん、じゃあ楽しみに待っておくわ」
「うん、そうしてくれ。俺も体験としては初めてだから楽しみだ。とりあえず明後日に必ずここに戻ってこれるようにさっさと寝よう。ポートラの港町での買い物時間思ってるより短そうだし」
そんな会話をしながら、2人はルームへと戻っていく。
時間が時間ということもあり、波の音は然程気にならずスッと眠りの世界へと入っていけた。
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