46.海辺戦闘の注意点
青々と繁る草木をかき分けて、2匹の羊は2人を乗せてグングン進んでいく。
本日は快晴。ドロップ品の卵はふわトロオムレツとして振舞われた。美味しい朝食のお陰で気力体力共に満タンだ。
「ねぇカナタ。街道逸れちゃって良かったの?」
先程、馬車に踏み均された道に出た。が、カナタはこれをスルー。確かにイエナたちのカタツムリ旅は可能な限り人に見られないのが理想である。だが、わざわざ遠回りしなければならないほどではない、と思っていたのだが。
「大丈夫大丈夫。多分こっちの方がいいと思う」
「ふぅん?」
旅のルートはカナタにお任せだ。彼が街道を使わないというのであればそれなりの理由があるのだろう。
(私は急ぐ旅じゃないしね。遠回りでも全然構わないもの)
そんなことを考えつつ、イエナはなんとなくもっふぃーに手を伸ばす。モッフモフの毛は刈り取ってしまったけれど、短いサラサラの毛も悪くない。どころか、かなり良い。こまめにブラッシングをしており、携帯シャワーも完成したのでシャンプーもそこそこの頻度でしている。次に刈り取る羊毛はきっと最高級品質の素材になるに違いない。
そもそも、品質に関係なくもっふぃーもゲンもカワイイのだ。
「イエナ、あのちょっと高くなってる方に向かおうか。多分崖になってるから良く見えると思う」
「良く見えるって……あ、まさか」
カナタを見ると、ニヤリとした笑みを返された。
イエナも全ては口に出さず、言われた通りの進路を行く。
「すっごぉい……これが、『海』!!」
ちょっと高くなった崖の上。何処までも続くと思っていた空が途中で途切れ、その下にはまた別の青が広がっている。耳をすませばザザ、ザザ、と川とは全く違う水音が聞こえてきた。
「メェッ!?」
「めぇ~……?」
もっふぃーとゲンも初めて見る海に驚きを隠せないようだ。イエナと共に圧倒されている。
「ね、ねぇ、カナタ。あれ全部本当に水なの?」
「そうそう。あ、ただ、海水ってしょっぱいから飲んだらだめだぞ、ゲンももっふぃーも」
カナタは2匹に向けて注意している。確かに何も言われてなければ危なかったかもしれない。
「イエナは色んな場所が見たいってのが旅の目的だったろ? だから、初めての海はこういう場所から一望するのがいいかな、と思って」
「そうだったんだ。ありがと」
カナタの気遣いに胸が熱くなる。初めて見る、というイエナの体験をより特別にできるようにと考えてくれたのだ。嬉しくならないわけがない。
「どうせだから海沿いを通って港町まで行こうかと思ってさ。そういえば窓付けたから、ルームの中でも潮騒聞こえるかもなぁ」
「シオサイ?」
「このザザーって音。海はずっと動いてるだろ? その音がこれ、潮騒。海の傍だなーって俺はワクワクするんだけど」
「うんうん、ワクワクする!」
「メェッ! メェッ!」
「めぇ~!」
イエナだけでなく2匹も同じ気持ちのようだ。
「じゃあ今日は海に沿って散歩しつつ、海の近くで一泊しようか」
「やった! ありがとカナタ!」
そうと決まれば、海の近くまで行くために、降りられそうな場所を探す。
崖の下はゴツゴツとした岩があり、その下は砂地なようだ。遠くに見えるポートラの港町の方は此処よりも岩が少なく、砂地が多いように見える。
ルームを出すのであれば遮蔽物が多いこの近くがよさそうだ。カナタもそう思ったようで、同じことを言い出した。
「ルーム呼び出すのに良さそうな岩陰とか探すか」
「了解~。……あ、これって貝殻じゃないの!? 彫金素材として触ったことあるけどこんな風に落ちてるものなの!?」
「あ、やばい。イエナの職人突っ走りモードが発動しそうだ」
「うっ……じ、自制がんばる」
声色はからかう感じのモノではあるが、実際に今イエナは暴走しかけていた。まずは先に今夜の安全を確保しなければ。
そう思いながら辺りを見回す。
足元の砂地はちょっと不安定で、足音も不思議な感じだ。人間もメリウールも通れそうな岩場の隙間でもないものかと見渡しているとーー。
「……? ねぇ、カナタ、アレなんだろ?」
「アレって……なんだ、アレ」
イエナが指さしたのは絶え間なく揺れ動く海の上。その水面になにかプカプカと浮いているモノがある。
問われたカナタも困惑している何か。
「クラゲ……いや、もしかして海スライムか?」
「海スライム!? そんなのいるんだ……?」
言われてみればスライムに見えなくもない半透明の体。ただ、以前見かけた普通のスライムや大変お世話になったポイズンスライムのような不定形と違って、海スライムは丸っこい形をしていた。
波に乗っている、というか、流されているらしい海スライムは暫く揺蕩っていたが最終的にイエナたちのいる砂地まで辿り着いた。
「メェーッ!!」
と、ゲンが気合の一声とともに思い切り蹴とばしにいった。ゲンはカナタが攻撃しない魔物がいると、サポートのために攻撃に回ることも少なくない。なので、このような行動自体は構わないのだが、今パーティがいる場所は海辺である。
「あ、コラ、ゲン!」
「えええ? ゲンちゃん!?」
焦ったが、声をかけたときにはもう遅かった。海スライムはレベルの上がったゲンの一蹴りで倒されてしまった。正直、倒すだけなら全く問題はない。
ただ、問題になるのは……。
「メェッ!? メェッ~~!?」
悲痛な鳴き声を上げながらコロンコロンと砂地を転がるゲン。先程カナタが説明してくれたように、海の水はしょっぱい、らしい。そんなところで思い切り蹴りなんてしようものなら水が飛び散ることは想像に難くない。
「この反応は目に入ったんだと思う。それとも、砂かな? いや、濡れた砂はそんな飛び散らないか。ああ、もうおバカ。ホラちょっと大人しくして」
カナタは冷静に判断しつつ、インベントリに入っていた飲み水を取り出して塩水を洗い流してあげた。
「塩水が目に……痛そう」
「めぇ~~……」
しんどそうなゲンに同情するイエナと、珍しくちょっと呆れ気味に鳴くもっふぃー。
「もっふぃー、危ないから海のお水で遊んだらダメだよ?」
「めぇ~!」
「良いお返事ね。……って、なになに?」
褒めようとしたところ、もっふぃーが何故かイエナの服の袖を咥えて引っ張り始めた。何事かと思ったのだが、どうやらゲンが倒した海スライムのドロップ品を教えてくれていたようだ。
「あ。なるほど。このまま放置してたら海に流されちゃうもんね。ありがと、もっふぃーえらーい」
とりあえずドロップ品はインベントリに突っ込んで後で調べることにする。まずはもっふぃーを褒めて、ついでにモフらなければ。
「めぇ~~~」
褒められたもっふぃーもまんざらでもないようで、ご機嫌に鳴いている。
「悪い、イエナ! 携帯シャワー出してブラッシング手伝ってくれ。砂がヒドい」
そんな主従のほのぼのやりとりの一方で、暫く悶えていたゲンだが、カナタのお陰で落ち着いたようだ。ただ、濡れた体で砂地を転げまわったせいで自慢の毛がザラザラになってしまっていた。
事前に毛を刈っていたのでまだマシだったが、それでも砂がつきまくりだ。携帯シャワーを使いつつ、2人がかりでブラッシングに精を出す。流石のゲンもこれには大人しくされるがままだった。暴れ疲れた、とも言えるかもしれない。
「まぁ多少のトラブルはあったけど、ルーム出せそうな場所も見つかったしいいか」
「海スライムのドロップ品もゲットしたしね」
「めぇ~」
「……メェ」
いつもより元気のないゲンの鳴き声を気にかけつつ、一行は一旦ルームへと戻ることにした。
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