45.開かない! 見えない!
次の日の朝。雨は止んだようで、ルームのリビングに明るい陽射しが降り注いでいる。
そう、窓を作ったことにより外の天候がわかるようになったのだ。
「窓のある暮らしってイイな!」
「開かない上になんでか外は見えないんだけどね。どう頑張っても無理だった……んー悔しい!」
晴れ晴れとした様子のカナタとは対照的に、イエナはどうにも納得いっていない。
夜を徹する勢いで改善を試みたのだが、どう頑張っても設置した窓は外の景色を映さないし、開けることができなかった。まるで磨りガラスで作った嵌め殺しの窓のように。
ちなみに、イエナはなんとしても改善した窓を完成させる意気込みだったのだが、徹夜はカナタに叱られ未然に防がれた。それでもベッドの中で寝落ちる寸前までずっと構造を考えていたせいでちょっぴり寝坊してしまった。
「製作手帳から読み取って、その上で色々アレンジしたのよ? でもぜーんぶ設置した瞬間ダメ。曇って開かなくなっちゃうの。もしくは、設置すらできないガラクタになり果てたのよ。完全敗北だわ……」
製作に失敗はツキモノ。
だがしかし、ここ最近の製作は軒並み大成功といって差し支えなかったイエナにとって、この失敗はかなりショックだった。
「いやいや、ルームにいながら外の様子がなんとなくわかるだけでも大成功だって。イエナより早起きした日もこれでキッチンで色々仕込めるし!」
ガックリとうなだれるイエナに、慌てたカナタのフォローが入る。
ルームの灯りの調節は今までイエナが一元管理していた。というか、ルームの持ち主にしか調節ができなかったのだ。
しかし、窓を設置したことで日光が入ることが判明。
イエナに頼らなくとも自然光での活動が可能になった。主に調理面で。
優しさからだけでなく、本当に生活が便利になるからこそのメインシェフの言葉に、イエナの落ち込んだ気分は回復していく。
「じゃあ地下にも窓つけたらもっふぃーたちも喜ぶかなぁ」
「それいいな。ゲンたちも朝日で起きられれば機嫌良くなりそうだ」
「……でも、地下に窓付けて光入ってくると思う?」
「えーとほら、ルームに常識は通用しないから……?」
ふと浮かんだ疑問を呈すると、カナタはそっと目線を逸らす。
「まぁやってみる方が早いか。昨日の残骸リメイクするくらいならサクッとできると思う。カナタ、申し訳ないんだけどもっふぃーの分の果物の準備もお願いしちゃっていい?」
「いいぞ~」
試行錯誤したものの、結局完成品には至らなかった失敗作たち。けれど、自然光を取り込むための採光窓としては十分に機能するはずだ。
ただ、走り回るもっふぃーとゲンたちがうっかりぶつかっては困るため少しだけ形状を変え、高所に設置することにした。
(外に出してあげられない街滞在中なんかは地下を走り回ってるみたいなのよね)
口を酸っぱくして、毒を置いているエリアに突撃だけはしないように言い聞かせており、もっふぃーたちも気を付けてくれているらしい。素材が手に入った今は危険物エリアにも丈夫な壁を作って設置しているが、念には念ということで。
そんな、ただでさえ我慢してくれている2匹に更なる制約は加えたくない。ということで、最初からぶつからなくて済むような工夫をする。
既に素材のほとんどは形になっており、あとは組み立てるだけなので簡単だ。
「こっちは準備できたぞー。……って、そっちももう完成か。相変わらず早業だな」
「そう? 今回は組み立てるだけだったからだと思うけど」
「そうだとしても、俺には無理なスピードだよ。職人は流石だよな。んじゃ、一緒に持ってってやろう」
出来立ての窓をインベントリに入れ、カナタが準備してくれたフルーツを持っていく。
地下ではきちんと起きていたらしい2匹がのんびりと過ごしていた。
「おはよう、ゲン。ご飯だぞ」
「もっふぃーおはよー。今日も可愛い~! モフらせて~!」
声をかければ2匹は元気に返事をしてくれた。果物をあげて、健康チェックついでのモフりとブラッシング。
それが終わったら、いよいよ窓の設置だ。
「この辺かな?」
今回2匹のために作った窓は横に細長い窓だ。どう頑張っても開けられないのだから、いっそ灯り取りのためだけにと割り切った。
設置場所は天井スレスレで、イエナやカナタも椅子や脚立なんかを用意しないと届かない位置だ。羊たちが間違って蹴とばす可能性は限りなく低い。
「おお、良い感じ。そこまで高いと流石にゲンも届かないだろ」
「メェッ!? メェー!!」
「あ、こら! フラグじゃない! チャレンジしなくていいから!」
カナタの言葉を挑戦と受け取ったのか、ゲンが果敢に壁登りにチャレンジし始める。が、壁面にはなんのとっかかりもないため登ることはできなかった。
「メ、メェ……」
「お前たちに危険がないようにイエナが考えて作ってくれたんだってば。チャレンジしなくていいから、な?」
「めぇ~~~」
全く窓に届かず凹み始めるゲンを宥める1人と1匹。
「えーと、あのね、ゲンちゃん。もっふぃーも聞いてほしいんだけど、この窓が万が一割れたり開いたりした場合、私たちにもどうなるかわからないの。このルームってなんか不思議な空間だからさ」
設置した窓からは太陽の光が降り注いでいる。地下なのに。
構造的には開くはずなのに開かない窓にムキになっていたイエナだが、よく考えると開いてしまった場合何処に繋がるのかが不明瞭で怖い。
「ルームは恐らく魔法の一種扱いで、異空間に繋いでいるって考えられそうだもんな。いやでもスキルだから魔力は使ってないのか? イエナもルームに入る際に魔力を使ってる感じはないし、そもそも維持にも魔力は使ってないから魔法ではない? その辺りの説明あったっけなぁ。どうせやらないからってサイト読み込んでないから背景は俺もわかんないや」
「メ、メェ?」
「大丈夫よ、ゲンちゃん。私もよくわかんない」
「めぇ~~」
困惑する2匹と1人。地下室がクエスチョンマークで満たされた気がする。
「ともかく、だ。窓から外に無理やり出ようとしないこと。……っと、ちょっと外見てきていいか?」
「え、良いけど……大丈夫?」
突然の提案に少々面食らう。
もっふぃーたちは朝の果物を食べて元気いっぱいだ。なので彼らを連れて行けばルームの外に出たときに、魔物と出くわしても多少はなんとかなると思うが。
「いや、それが……見てもらったほうが早いか。ゲン、おいで」
カナタはゲンを連れてバタバタと階段を上がっていく。イエナも気になってそのあとを追う。もちろん、もっふぃーも一緒だ。
外に出る前に、カナタはイチコロリを手にした。
「よし、ゲン。開けるぞ。仕留めそこなったら頼むな」
「メェッ!」
安心安全のカタツムリ旅だが、1つだけ緊張する瞬間があった。それは、ルームの外に出るときだ。ルームの中からは外の様子が全くわからない。運が悪いと魔物が大量発生しているど真ん中に出る、なんて可能性すらある。
そのため、出る瞬間はいつも万全の体勢を整えて、気合を入れてから行くのが常だった。
が、今のカナタにそんな気負いは見られない。
一応ゲンに声はかけているものの、まるでいつもの狩りのような調子だ。
「やっぱり、いた!」
ドアを開け放ってすぐ、カナタはイチコロリから矢を射る。カナタの陰になってよく見えなかったが、チラリと見えたルームの外では魔物を倒したとき特有の光が見えた。
「ゲン、サポートありがとうな。ドロップ品は……卵か。朝食ちょっと豪華にできるな」
「ねぇ、もしかして気配察知できたの?」
カナタの動きには迷いがなかった。まるで、ルームのすぐ外に魔物がいるとわかっていたみたいに。
「うん、そうみたいだ。窓の近く限定だけど、気配察知スキルがきちんと発動した」
「えぇ!? それって凄くない? カタツムリ旅が更に安全になりそう! あ、じゃあじゃあ、ドアの近くに小窓つけたらいいんじゃないかしら! 早速……」
「イエナ、イエナ! 作ってもいいけど、先に朝ごはんにしよう。折角新鮮な卵が手に入ったんだから」
今にも部屋中に窓を作りそうなイエナをカナタが止める。
より安全なカタツムリ旅ができそうということもあって、日光が入る朝食の場はとても明るかった。
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