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44.職人の盲点家具編

 旅にトラブルはツキモノである。

 思ったように魔物が倒せない。

 疲れが出て先に進めない。

 色々な要因はあるが、本日の場合はーー。


「ルームの中だとマジでわかんないな……外の天気なんて」


「メェー」


 本日の天気は雨。しかも、強い風つきの横殴りのモノ。正直強行軍できなくもなかったのだが、視界の悪さや濡れた服の不快感もあって早々に引き上げた形だ。

 ゲンも足元が汚れるのがイヤだったようで、大人しく引き上げてくれた。今はカナタにブラッシングしてもらっている最中である。


「外に出て一瞬でびしょ濡れになったのが嘘みたいに静かよね。ルームの中って外の音が聞こえないし、結構感覚狂っちゃうかも」


「めぇ~~~?」


 宿付きのカタツムリ旅なんだから、悪天候であってもさほど支障はないのでは、と試してみたのだ。その結果得られたのは魔物数体分のドロップと、濡れマウチュウと化した2人と2匹だった。30分もしないうちに2人は無言で見つめ合い、撤退を決めた。

 もっふぃーは濡れることも汚れることもあまり気にしない派らしい。少なくとも、ゲンよりは。


「そういえば、家具で窓設置できなかったっけ?」


「えっ、家具で!? そんなのあった? ちょっと待って、検索してみるから……」


 製作手帳は膨大な量があり、未だにその全てを確認できていない。

 カナタに言われて家具関係を検索すると、確かに窓という分類の家具が数種類存在するようだ。


「あった! 窓が家具の括りだったなんて、盲点だったわ。そういえば、各部屋のドアもそっちで作ったんだから、窓だってそっちにあって当然よね」


 先入観とは恐ろしいものである。

 まさか窓を『家具』で作るだなんて考えもしなかった。


(くぅ……そもそも製作手帳がカナタと同じ異世界のモノなんだから、私の常識で考えたらダメだったんだわ……最近慣れてきたと思ったのに!)


 なんとなく敗北感を覚えてうなだれてしまう。


「まぁ常識的に考えて、窓が家具って分類おかしいと思うよ」


「え、カナタがそれ言う?」


「え?」


「あ」


 2人の間にちょっぴり気まずい沈黙が流れた。

 それを察したのか2匹が交互に主人たちを見ている。


「……イエナが俺をどう思ってるかよぉ~~くわかった。今日の夕飯、楽しみにしとくといい」


「え、あ、待って待って。そこでご飯を人質にするのおかしいでしょ!」


 イエナはほとんど好き嫌いがないし、食への執着は薄い方だと自負している。というか、カナタが物凄く拘り派なのだ。

 正直なところ、イエナは一週間同じ食事が続いたってどうってことない。しかしながら、カナタにとってそれはトンデモナイことらしい。カタツムリ旅に出て以降は進んでメインシェフを担当してくれている。

 そんな拘りのないイエナだが、先日苦手っぽい食材に出合ってしまった。それは、リトルウィードというツタが絡まったような見た目の魔物のドロップ品で『ヒジキ』と言うらしい。カナタは手に入れたときに懐かしがっていたのだが、ヒジキ初見のイエナからするとちょっと食べ物に思えなかったのである。

 ドロップした当日カナタは実験的に少量調理していたが、イエナは遠慮したのだ。


「まぁまぁ。実際まずいものを作るつもりはないし」


「う~~~……作るのは決定ってことね。まぁ食わず嫌いもあるかもしれないし」


 事実、カナタの作る料理は美味しい。たまにミソのようなびっくりするニオイがあるものも出てくるが、味は良いのだ。彼のジョブはギャンブラーなのは間違いないが、調理に関しても才能があったのではないかと思う。


「まぁ脅すようなこと言ったけど、無理に食べなくてもいいからな。試しに一口は食べてみてほしいけど」


「善処しますぅ。はぁ、とりあえず今日はこれ以上移動もしないし、窓含めて製作するわ」


「オッケー。あ、でもその前に今後の打ち合わせしないか? ゲンたちもいるし」


「あ、それもそうね」


 今後の話はパーティメンバー全員で。羊たちだって立派なパーティメンバーなのでのけ者にはしないのだ。正直もっふぃーあたりは理解しているのか怪しいフシがあるけれど。

 いつも通り、イエナは紙と筆記用具を用意して書記を務める。


「まず、トマリの街でイエナが活躍したお陰で、当面お金の心配はしなくて良くなったな」


「めちゃくちゃ運が良かったのよ……これカナタの幸運スキルのおこぼれかなぁ?」


「それはなんとも言えないけど、今後困ったら頼れそうだよな。ただ、イエナが有名になったらちょっとカタツムリ旅に影響でそうだけど」


 トマリの街で知り合ったナイスミドルなオジ様、ロウヤさん。なんとアデム商会の元会頭さんらしい。現在は相談役として気ままに街を移動しながら掘り出し物を探しているのだとか。

 そんな人物にイエナは名刺を貰い、その上「専売するならアデム商会へ」との言葉まで頂戴している。

 とても良い話な気がする。良すぎて、思いもよらない落とし穴があるような気がしてならないのが現状だ。


「とりあえず、銘を入れて今まで通りギルドに納品しようと思ってる。ただ、今後色々製作してったらどうしても使わない品って出てきちゃうと思うのよね。そういうのが増えてスペースがヤバイってなったときに相談するとか、かな」


「イエナがそう決めたなら俺に異論はないよ。あ、一応街で軽く調査した感じ、アデム商会が悪徳だとかいう噂は聞かなかった。大手で業績は安定してるけど、会頭交代が結構最近で、若き会頭が率いる商会が今後どうなるか、様子見してる人が多かった、くらいかな」


「あーやっぱり最近なんだ? ちょっとお話しただけだけど、引退にはまだまだ早い素敵なオジ様だったもん」


 カナタが元の世界に帰って、気ままな一人カタツムリ旅になったら頼っても良いかもしれないとは思う。何せ、イエナ一人だとどうしても素材入手が段違いに難しくなってしまうのだから。


(まぁ、それはまだ先の話だよね……)


 少しだけ未来に思いを馳せていると、すぐに冷静な声に引き戻される。


「随分良くしてもらったっぽいな」


「え? だって、お財布潤ったのはカナタも知ってるでしょ? お陰でカナタの次の装備もいけそうじゃん?」


 ビジネスパートナーとして一緒に旅をすると決めた時に、既に旅の大まかな計画は聞いていた。カナタの目標レベルもそうだし、必要な装備もだ。

 イエナはカナタの装備も作る約束になっている。会心作にする自信もついたし、やる気満々だ。今回お財布が潤ったことで、素材の一部は購入できたことも大きい。


「まぁな。今のところ計画はそこそこ順調だと思う。ポートラの港町で調味料を入手したら、次はダンジョンデビューが今のところの目標かな。……トラブルないといいな」


「不吉なこと言わないでよ~。でも、そっかぁ。ついにダンジョンデビュー目前かぁ。うーん、どうなるだろうねぇ」


 ダンジョンの中でルームは使うことができるのか。

 使えるとしても、周囲に人気(ひとけ)があれば使うことはできない。いったいダンジョンを探索する人間はどのくらいいるのか。

 そもそも、ダンジョンという未知の空間でこのパーティは通用するのか。

 今は確認できない不安要素だらけだ。


「まぁダンジョンに関してはホント行ってみないとわからないよ。最悪ダンジョンはスルーして、ちょっと効率悪くても地道に戦闘してレベル上げルートも考えてるから」


「安心安全の旅をモットーに、よろしくお願いします! 私も旅を快適にできるように頑張るからさ」


 色んな景色を見てみたくはあるけど、やはりダンジョンと聞くとちょびっとだけ尻込みしてしまう。


(せめて自衛手段でもあればいいのになぁ。爆薬とか作ってみる? あ、でもそれ投げる方向間違ったら味方が危ないか。やっぱり私専用ハンマーが一番かなぁ)


「メェッ!」

「めぇ~~?」


 そんなことを頭の隅に起きつつ、2匹の合いの手が混じった打ち合わせは続いた。


【お願い】


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