表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/229

43.まだ見ぬ海に向かって

 トマリの街に滞在したのは結局4日間だった。カナタの想定よりもかなり短い。

 イエナの製作品が思っていた以上に高値で納品できて、旅の準備が早めに整ったのだ。その準備には、もっふぃーたちの毛刈りも含まれる。

 格安の中古バリカンをカナタが見つけて、イエナがスムーズに動くように修理したため出費も最小限。そして、2匹のモフモフ(羊毛)とは一時お別れとなった。

 なお、先にスッキリサッパリ丸刈りにされたもっふぃーを見てゲンが逃げ回ったのは此処だけの話である。カナタが必死に説得して、どうにか毛刈りさせてもらったのだが、暫くはご機嫌斜めだった。

 毛刈りのお陰でイエナは上質な羊毛を手に入れたし、2匹の鞍はつけやすくなった。しかも、その羊毛で製作した物がまた高値でひきとってもらえるという好循環。

 これはアデム商会の元会頭のオジ様、ロウヤさんの力が大きいと思う。

 昨日最後の納品をしたときに、また旅に出ると挨拶をしてきた。


「修行の旅、でしたか。貴女が満足いく修行ができることを祈っていますよ。旅の最中で何か入り用になりましたら是非アデム商会へ。私の名刺を提示していただければ多少の融通は利くかもしれません」


 ニッコリと微笑まれ、最後は握手もした。温かい手が、なんだか父親のことを思い出させたのはナイショである。


(カナタが帰っちゃったあとは、一旦家に戻るのもいいかもなぁ。良いご縁があって製作品扱ってもらえそうだよ、とか報告できるようになってたら、だけどさ)


 まだ先のことはわからない。

 けれど、確実なのはカナタとの関係はいつか解消されるものだということ。そのときに、イエナはどういう風に生きていくのか。このあたりはまだ漠然としていて、決まっていない。

 ただ、このカタツムリ旅はかなり快適なので、できれば続けたいと思っている。そのための準備をしっかりやっていくべきだ。たぶん。


「おーい、イエナ。どうした?」


 色々と考えながらもっふぃーに乗っていると、カナタに声をかけられた。


「へ!? なに!?」


「おわ、びっくりした。何って、なんかボーっとしてたからさ」


「あ、あー。今後何作ろうかなって。ほら、ちょっぴりお財布も潤ったじゃない?」


 嘘ではない。

 おひとり様カタツムリ旅を続けるために必要な製作物だってあるのだから。それをそのまま伝えるのは、なんとなく気が引けただけで。


「具合悪いんじゃなきゃいいよ。んー製作かぁ。今は手帳の初製作ボーナス片っ端でもいい気はするなー。暫くこのイチコロリが活躍してくれそうだしさ」


 カナタは良いヤツだ。

 さりげなく体調の心配もしてくれて、製作物にも真摯に向き合ってくれる。だから、彼の「元の世界に帰りたい」という目標も全力で応援したい。


「あ、そうそう。私もそろそろ武器って作ってみようかなぁとか」


「ハウジンガーの武器、かぁ。ほとんどが戦ってないんだよな、俺の知識だと。ただ、ステータス的に言えば器用さと筋力が強めだから……あぁ、でっかいハンマー背負ってる人とかはいたな」


「ハンマー!?」


「めぇ~~!?」


 予想外の武器で思わず声が高くなってしまった。主人のイエナに釣られたのか、もっふぃーも珍しくちょっと大きな鳴き声を上げる。


「メェッ!? メェ~~~!」


 そしてもっふぃーに呼応するようにゲンまで鳴きだした。

 これはちょっと落ち着かせた方が良い、ということで急遽2匹を止めてルームでおやつタイムに入る。驚かせてごめんねの意味を込めて誠心誠意ブラッシングもさせてもらうことにした。

 もっふぃーたちに乗りながらより、こっちの方が落ち着いて話せるので良かったかもしれない。


「で、話戻すんだけど、ハウジンガーの武器がハンマー?」


「いや、たまたま俺の印象に残ってるハウジンガーが装備してたのがハンマーだったって話。ただ、よく考えると結構理にかなってるかも」


「どゆこと?」


「クラフター全般器用さが高い傾向あるけど、筋力もそれなりだろ?」


「普段力仕事してない人相手だったら、腕相撲で勝てる自信はあるわ」


 重い素材を運んだり、大物を製作中に支えたりとクラフターに体力筋力は必須技能のようなものだ。自然とそのあたりは成長するものだと思う。


「一般的に器用さを要求される武器って言うとボウガンとかの射る系の武器を真っ先に思いつくよな。けど、武器として扱うならやっぱ練習が必要になるだろ? その点製作に使っているものと兼用するならそこまで練習がいらないんじゃないかな、と思って」


 そう言われると確かに手になじんだモノの方が武器としてうまく扱えるような気もする。

 鍛治師の製作手帳には様々な武器と並んでハンマーも載っていた。


「なるほど、アリかも?」


「イエナなら製作手帳にある武器を一度作ってみて、それを参考に改良するくらい朝飯前だろ。っていうかイチコロリがそうだし。世界にひとつしかない、イエナ専用武器っていうのを追及するのも楽しそうだよな」


「何それかっこいい。燃えてきちゃう!」


 一瞬巨大ハンマーを担ぎあげフルスイングする自分の姿を想像した。絵面的に、乙女として如何なものかと思う。が、それ以上に『世界でひとつしかない専用武器』を使いこなすという部分に惹かれてしまう。

 我ながら単純、いや、カナタが上手うわてということにしておきたい。


「ただ、残念なことに今から向かう『ポートラの港町』はそんなに鉱石とか手に入らないと思うんだよな。そこはごめん」


「まぁ私の武器は急いでないもの。おいおいで大丈夫。ただ、今からハンマーとかの鍛治師系武器を重点的に作っておくのはアリよね」


「草原に生息する魔物でもレアドロップで鉱石落とすことはあるし、そこは誠心誠意頑張らせて頂きますとも」


 カナタはおどけた様子で勿体ぶった一礼を寄越してきた。

 魔物のドロップ品はやはりその魔物に由来するモノが多い。牛系モンスターがお肉や牛乳を落とす、などだ。そのため、今後の目標を鍛治師系製作と決めても素材不足になってしまう。普通であれば。

 その点、イエナは今カナタとパーティを組んでおり、レアドロップも珍しくはなくなっている。やはりカナタの存在は大きい。


「レアドロップ期待してるわね。じゃ、そろそろ移動再開しよっか。ね、もっふぃー」


「めぇ~~」


 おやつを食べ、ブラッシングもされたもっふぃーはやる気満々のようだ。


「ゲンも頼んだぞ」


「メェッ!」


 毛を刈られた直後はもの悲し気な鳴き声を上げていたゲンも、今ではすっかり回復しているようで一安心だ。カナタの毒針クリティカルがたまたま発動しなかった魔物を勢いよく蹴とばしてくれるくらいには元気が良い。

 ポートラの港町までの道中には程よい格上の魔物も存在しており、ポイズンスライム退治ほどではないがゆっくりとレベルも上がっていた。

 初めて見る海は、もうすぐそこである。

【お願い】


このお話が少しでもお気に召しましたら、本編最新話の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


イマイチだったな、という場合でも☆一つだけでも入れていただけると参考になります


ブックマークも評価も作者のモチベに繋がりますので、是非よろしくおねがいいたします


書籍化作品もありますので↓のリンクからどうぞ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 画像をクリックすると、Amazonに移動します ▼▼▼  
表紙絵
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、Amazonに移動します ▲▲▲
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ