閑話 モフモフの父
父の日ですね!!スペシャル閑話です
特になんでもない日。
いつも通り2匹の羊に乗って移動し、ルームに戻って彼らを労って、今に至る。
ただ、この日はちょっとだけイエナの様子が違った。
普段であれば、イエナは夕飯までの間に製作の準備をしている。何を製作するかはその時々。通ってきた道にいた魔物のドロップ品によって製薬だったり革製品だったりと変わっている。
のだが、今日は製作部屋に入ったかと思ったらすぐに出てきたのだ。
「どうした? 忘れ物?」
カナタが不思議そうに問いかけてくる。まぁいつもと違うことをすればそういう反応になるのは当然のこと。
イエナはニッコリと笑顔を浮かべて、カナタにとあるものを差し出した。
「はい、カナタ、プレゼント!」
「へ?」
「日頃の感謝を込めてってところかな。まぁいいじゃん。見てみて~」
本当はカナタの誕生日なんかを知っていれば良かったのだけど、なんだかんだで聞きそびれていた。なんというか、プライベートな部分にどこまで踏み込んでいいのか、未だに迷うことが多いのだ。
何せ、2人はビジネスパートナーであるという契約を結んでいるのだから。
ただの仕事相手であれば、イエナだって誕生日をわざわざ尋ねたりはしない。話の流れで聞いたことはあった(例として、妙にご機嫌だったマゼランに理由を聞くと娘さんが朝からサプライズで誕生日を祝ってくれたときなど)けれど、日にちまでは覚えていないし、プレゼントだって渡していない。
しかしながら、カナタにはただの仕事相手以上にお世話になっている、と思う。確かにイエナが彼をお世話することだってあるけれど、やっぱり日頃の感謝は伝えたいではないか。
「エプロン?」
「うん! 日頃の美味しいご飯に感謝を込めて。あと、掃除とか掃除とか掃除とか整理整頓とか」
「後半ほぼ同じだな?」
プッと吹き出したカナタの笑顔に、イエナのちょっとばかり感じていた緊張がほどけていく。
カナタに渡したのは深緑色のエプロンだ。ただ、現時点ではポケットは付けていない。
「色々悩んだんだけど、ポケットの位置はオーダーメイドにしようかな、と思って! 実際に作業してるとここにあると邪魔だとか、こっちの方が便利とかあるじゃない?」
「あー、それめっちゃ助かるかも」
「ということで着てみて! んで、作業しながら、あったら便利な位置を教えてくれれば私がメモとって、後から付けるから」
メモの準備も、ポケット用の布の準備も万端だ。
完成品の譲渡は明日以降になってしまうが、カナタ仕様の便利なエプロンができあがるのでその辺はヨシとしてほしい。
「至れり尽くせりだな……しかし、エプロン」
「ダメだった? でも、あった方が便利かなーと思ったんだけど」
「あぁ、いや。ダメとかじゃなくって、父の日って近かったよなぁって思って」
「チチノヒ? 父の日?」
「こっちにはないか。そりゃそうだ」
カナタは料理の準備をしながら父の日について教えてくれた。
あちらの世界では、色々と〇〇の日、というのがあるらしく、父の日は日頃の感謝を父親に伝えるらしい。
「カナタ、父じゃなくない? いや、ゲンちゃんの父?」
「まぁ確かにゲンはカワイイとは思う。色々頑張ってくれてるし」
ゲンは魔物を倒すことに意欲的だ。といっても、大半はカナタの幸運が発揮されてあまり活躍の場所はないのだけれど。
そのうち良いところを見せたい気持ちがありあまって暴走しないかちょっぴり心配だ。そういうことがないようにカナタが日頃から言い含めてはいるのだが、その姿は娘を思う父親に見えなくもない。
「じゃあ私はもっふぃーの母? ……子にメロメロな母すぎないかしら?」
対照的にもっふぃーはいつでものんびりおっとりだ。先走り気味なゲンとの相性も良い。魅惑の真っ白な羊毛にイエナは毎回メロメロでモフモフである。最近モフモフという言葉に様々な意味を持たせまくって言語が崩壊してきているような気さえする。
つまり、うちの羊たちはカワイイ。
「んーまぁ移動でも戦闘でも役に立ってくれて、癒しな上にカワイく、羊毛までくれるんだからメロメロでいいんじゃないか?」
「だよね!!」
力強く肯定する。モフモフは最高なのだ。
そんな会話をしつつ、カナタは調理に取り掛かる。
「うーん、ポケットこの位置よりも下がいいかも」
「あぁ、シンクとかに当たっちゃうのか。胸ポケットも付けておく?」
「胸ポケット……いいかも。イエナが散らかした小物の一時保管庫に良さそうだ」
「保管庫の規模!?」
せめて保管室とか、もう少し小さな規模でもよくないだろうか。
だが、何ひとつ反論できないのが辛いところ。イエナだって共用スペースは散らかさないようにと思っているのだが、ついつい。
(……でもなんだか悔しいからいっそのことドデカく作ろうかしら)
メモに『胸ポケット、めちゃデカで』と書き足しておく。
その後もカナタの要望でメモは埋まっていった。なかなかやりがいのある仕事になりそうだ。
「うん、そんな感じかな」
「あ。あと肩ひも部分とかも暫定でつけてるだけで、素材とか変えられるよ? あとは後ろで結ぶんじゃなく、ボタンで留めることも」
「あーじゃあ肩のとこはもう少し幅広くてもいいかな。後ろは……どうだろう。今のところ結んでて途中でほどけることはなかったけど、ボタンの方がシッカリはしてるよな」
「キッチンならしゃがむとかくらいでそんなに大きく動くことはないと思うけど、そのまま地下いってゲンちゃんに飛びつかれたときにほどけるなんてのはあるかもね」
「んー、悩むな」
そんな会話をしながらもカナタは手際よくフライパンを揺する。イエナも何度か手伝いを申し出たのだが、最近はカナタの料理姿を邪魔してはいけないと思うようになってきた。
キッチンのカナタはなかなか絵になる、というのは新たな発見だ。
「ふふ、いつも頑張ってくれてるおとーさんにプレゼントなんだし、ボタンタイプも作ろうか?」
「いいのか?」
イエナとしても、どっちの方がカナタに似合うかは悩ましいと感じていた。2つ製作するくらいはどうってことない。
勿論材料があればの話だが、幸いなことに深緑色の生地は余剰がある。
「洗い替え用もあったほうが便利かなーと思って」
「んじゃお願いしたいな。……ほんと、イエナなしでの生活考えられなくなりそうでやばい」
「えっ……と、それはお互い様じゃない?」
一瞬、返事に詰まってしまったのは何故なのか。
カナタの評価が嬉しいのと、いつかお互いがいない日が来るんだなぁという寂しさのせいだと思う。多分。
カナタに今のはあまりヘンな間だったと思われていなさそうなので良かった。
「それもそうか。あ、イエナそろそろカトラリー頼む」
「はーい」
カナタが帰る日が来たら、このエプロンなんかはお土産に持って帰れないだろうか――そんなことを考えながら、イエナは食事の準備をするのだった。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編最新話の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
イマイチだったな、という場合でも☆一つだけでも入れていただけると参考になります
ブックマークも評価も作者のモチベに繋がりますので、是非よろしくおねがいいたします
書籍化作品もありますので↓のリンクからどうぞ





