37.お風呂の効果
カナタはその後、宣言通り1時間以上風呂を堪能して戻ってきた。
「イエナー。もう終わりだぞー」
「ええええ、待って待って。ここの仕上げだけ!」
「仕上げだけならこの辺は片付けるぞ……俺が風呂入ってる間に嵐でもきたのかこれ」
ちょっと散らかってしまったリビングを見て苦笑しつつ、容赦なくドロップ品をインベントリに収納していく。
イエナが仕上げを行っている最中に全てスッキリと片付けられてしまった。しかも、散らかした素材クズの掃除まで。
(カナタってお風呂も好きだし、サクサク片付けちゃうしキレイ好きなの!? 不潔よりは全然いいし、あんまり私が得意じゃない整理整頓に掃除もしてくれるのは有難いけど……)
製作好きなイエナはできることなら素材や工具を一目見てわかるように広げておきたいタイプである。それは、一般的に「掃除ができない」「だらしない」と評されてしまう。理不尽である。できないわけではない、広げて置く方が合理的だ、と思ってしているだけで。
ただ、それが通じるのは私室に限られる。
リビングのような共用スペースでその理屈は通じない。それはイエナだってわかっている。
「はぁ、スッキリしちゃってる……」
「街に着いて、需要調査したらすぐに素材と再会できるからそんな恋しそうに言うなよ。俺が極悪人みたいじゃん。今日は風呂入ってさっさと寝よう。あ、ちなみに何作ったんだ?」
「もっふぃーとゲンちゃんのための携帯シャワー! 別にお風呂場まで連れてってもいいんだけど、外で泥とか洗い流せるほうが便利かなと思って。次に魔石が手に入ったら使えるようにまでは組めたわ!」
意気揚々と新作を見せる。
今回手に入った魔石は全て風呂に使ってしまったが、この調子であれば魔石はまたすぐゲットできそうだ。そう考えたときに、真っ先に頼れる相棒たちの快適さを上げるグッズが浮かんだのだ。キレイ好きのゲンは、これが完成したらイエナにもモフらせてくれるかもしれないというちょっぴり下心もある。あくまで、ちょっぴり。
「へぇ、そりゃいいな。今の水鉄砲シャワーだと、汚れが酷いときは水を何回か汲みなおしに行かなきゃならないもんな。温度調整もできるならその方がゲンたちも喜ぶだろうし」
「ねー。そのためにもまたいっぱい狩らないとね」
「たくさん狩るためには、心身の健康が大事だぞ。ほら、風呂入って寝る準備。俺は明日の朝飯仕込んどくから」
「え? 朝からごちそう食べれる?」
「まぁ食材も多少手に入ったからな。街も近いしそんなに切り詰めなくていいと思って。あ、ごめん、風呂行く前にリビングの家具出してって」
「あ、了解~」
家具を元通りに設置してから、イエナも風呂へ向かう。
浴槽の湯はカナタが張りなおしてくれたらしく、全くぬるくなっていなかった。
「確かに長湯したくなるかもー」
そんな感想を呟きつつ、しっかり汗を流して風呂を後にする。湯船に浸かりながら次の製作物を考えていたところ、アイデアが溢れてきて困ってしまった。今度から脱衣所まで筆記用具を持ち込むかちょっと悩むところである。
お風呂に浸かって体が温まると、自然と眠気が襲ってきた。
風呂上がりにリビングに寄るとカナタもちょっとうつらうつらしていたので、それぞれ自室に戻って就寝という流れになった。
灯りを消して、ベッドに潜り込めば5つ数える前に意識が沈んでしまった気がする。
「……お風呂効果、すごくない?」
翌朝、目が覚めて薄明りの中時計を見ると、ちょうどいつもの起床時間。しかしながら、体の軽さが違った。あちこちにほんのりあった筋肉痛だとかだるさが全て消し飛んでいたのだ。
ルーム内の明るさを調節し、大急ぎで身支度を整えてリビングに向かう。
そこには既に身支度を整えて朝食を作り始めているカナタがいた。恐らくリビングが明るくなるのを待っていたのだろう。
「お、おはよ。イエナ」
「おはよう、カナタ。はやいわね。っていうか、お風呂の効果すごくない!?」
「だよな! やっぱり風呂って大事だよ」
この感動を共有したくて、ちょっぴり早口になりながら問いかける。すると、カナタもニッコリ笑顔で共感してくれた。
「イエナにも風呂の良さがわかってもらえて良かった。あとは入浴剤とかあればなぁ~」
カナタが朝食の準備をしてくれているので、イエナはもっふぃーたちのご飯を用意する。といっても、果物を見繕って並べるだけ。あとはちょっと熟れすぎた部分や、硬そうなところをナイフで削ぐ程度だ。
そんなお手伝いモドキをしていたところ、耳慣れない言葉が聞こえてきたので思わず聞き返す。
「……ニューヨクザイ?」
「あれ? こっちじゃあんまり一般的じゃないのかな。そういや庶民だと風呂釜とかそんなにないんだっけ? あ、そろそろゲンたちも呼ぼうか」
一旦話を打ち切って、もっふぃーとゲンを呼びに行く。朝食と夕食は皆で食べるというのが習慣になってきていた。昼食に関しては、移動中気が向くと2匹が好きにそのあたりの草を食べ始めるので適当である。
「メェッ!」
「めぇ~~」
「果物をドロップする魔物もいたから、それは見かけたら今後もレベルに関わらず狩っておきたいな」
「新鮮な方がやっぱり美味しいのかな? もっふぃーたちも機嫌良さそうだし。ねー?」
「めぇ? めぇ~~~」
「メェッ!」
嬉しそうに果物を頬張るもっふぃーと、ニコニコ見守っていたらフンッとばかりにそっぽを向くゲン。これもまた日常の風景になりつつある。そっぽを向きつつ尻尾をフリフリしているのでゲンの機嫌も上々なのがわかる。カナタ曰く、ゲンは『ツンデレ』というものらしい。よくわからないが、早く懐いてモフらせてくれる日が来るとよいのだが。
そんな感じで用意した果物を食べさせてやってから、人間の食事の開始だ。
「おぉ。すごい! 朝からお肉だ!」
お馴染みのグリッツと名もなきクズ野菜のスープ。そして、本日はドーンとチキンソテーがあった。久々の朝からガッツリ肉ということもあってテンションが高くなってしまう。そもそもお肉が暫くぶりだ。
カナタもテンションが上がっているようで声音がウキウキしている。
「昨日の夜漬けて置いたんだ。もっとしっかり塩をきかせないと保存食にはならないだろうけど……」
「あーそういえば、旅してるとやっぱ冷蔵庫ほしいよね。野菜より肉の方が傷むのはやいもの……そのうち寒い地域行こう」
「寒い地域の魔物も選べばイチコロリで倒せるとは思う。けど、寒い地域に行くには防寒具必須だぞ?」
「そろそろもっふぃーたちの毛刈りさせてもらってそれで防寒具できないかなぁ」
そんな会話の合間に、久しぶりのお肉に対する「うまっ」という反応が混ざる。一晩塩コショウで漬けただけのチキンソテーだが、大変満足する味だった。
「あ、そうそう。それでニューヨクザイって何?」
食後の後片付けを並んでしながら、気になった単語を聞き直してみる。
「風呂に入れる薬、みたいなものかな。良い匂いがしたり、疲れがとれたりとかの効能があって……重曹とクエン酸だかで作れるって聞いたことがあるけど、詳しくはわかんないや。そういやイエナ製薬できるから作れるんじゃ?」
「重曹もクエン酸も多分街で売ってるわよ。お掃除に使うもの。それにしても、いいこと聞いたわ」
イエナの脳裏にまた新たなアイデアが浮かぶ。
大急ぎで後片付けを終わらせると、すぐさま筆記用具の元へ走るのだった。
「あーあ、また製作スイッチ押しちゃったよ。まぁ、便利になるからいいか。なーゲン、もっふぃー」
「メェッメェッ!」
「めぇ?」
1人と2匹がこんな会話をしていたことを、イエナは知らない。
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