36.条件付き製作許可
本日の夕食はトウモロコシの粉を煮込んだグリッツをチーズで味付けしたモノと、焼いたベーコンだ。優しい味のグリッツにベーコンの塩味がとても良く合う。
ちなみにキッチンの一角で立ち食い状態だ。あまりお行儀は良くないが、プライベートな場なのだし構わないだろう。
「ベーコンってもしかしてドロップしたやつ?」
「そうそう。折角だからちょっと使ってもいいかなって。主食は相変わらずグリッツだけど、これもまぁ悪くはないよな。安いし」
「街についたら大量に仕入れたいところよね。安いし、日持ちするもの」
「……コメが食いたい」
やはりカナタは食に並々ならぬ拘りがあるらしい。お財布が許すのであればイエナとしては構わないところだ。
「んー、別に私はそれでも構わないけど、お財布的にはどう?」
「ちょっと微妙だな。俺たち討伐証明部位とやらはとってなかっただろ?」
討伐証明部位、というのは魔物を討伐した際に採る部位のことだ。尻尾だったり、角だったりと部位は様々で、倒した魔物が消えてしまう前に切り取るらしい。それらをギルドに持っていくことで、討伐の証とすると冒険者講習で習った。
「そういえばそうね。っていうか、そもそも魔物って倒したら消えるものじゃん。消えるまでのあの短い間で切り取るって言われても、ねぇ。それに本体は消えるのに切り取った方は残ってるってのもホント~? みたいな」
イエナの常識として、魔物は倒したら消えるものである。倒した魔物から何かを切り取るだなんて考えたこともなかった。
「同感。っていうか、討伐依頼ってシステムが勝手にカウントしてくれるものだと思い込んでたしなぁ……。いや、講習で習ったけど正直実感なかったし、思い出したときには消えてたしで」
対するカナタは元の世界の考えとの差異に苦しんでいた。
言っている意味はちょっとわかりかねるが、ともかくカナタも切り取ることは頭からすっぽ抜けてたらしい。
「それにさ、私たちが『討伐しました!』って持っていったとして、正直トラブルの元になりかねないっていうか……」
「俺も全く同じこと考えてた。一般的に考えて未知ジョブと不遇ジョブが大量の討伐部位持ってたら怪しまれそう。ま、討伐証明部位がどこなんだかわからなかったのもあるけど」
「魔物の種類も豊富だったものね。ってことは、私たちがお金を稼ぐとしたらドロップ品を売るくらいしかなさそう」
チラリ、と分別されたドロップ品たちに目をやる。
食料の大半はキッチン側へ。それ以外のものは壁の方へ。壁側のモノも薬草などの植物系、石系、ちょっとした武器系などにざっくり分類されている。
が、それらがお金になるとはあまり思えない。たまに需要が跳ね上がって普通の草が求められている場合もあるけれど、カナタの幸運スキルはそれまで引き寄せられるかは未知数だ。
「正直どれもお金になるかは……って感じだよな。だから、街についたら一度商業ギルドの方も見てみないか?」
「あ、そっか。私が加工したっていいんだものね」
「というか、イエナの製作物の方が絶対売れると思う。どっちかっていうと商業ギルドの方を見るのは売れ筋とか需要を調べるためだな。例えば今冒険者用ブーツが品薄ってなってたらお手の物だろ?」
「あ、皮っぽいのもあったものね。色々作れそうで楽しみ~」
イエナにとってこの部屋にあるものは宝の山、もとい、宝の原料のようなものだ。まだ精査してはいないけれど、たくさんの素材はやはり心が躍る。
が、ウキウキなイエナを見てカナタがストップをかけてきた。
「イエナ、ルンルンしてるとこ悪いが、今日は製作ダメだからな?」
「えぇ!? こんなに素材あるのに!?」
「今言ったろ? 需要に合わせて作らないとお金作れないって。需要に合わせてだったらどれだけ作っても構わないから」
「それまでお預けってことぉ?」
カナタの言っていることはちゃんとわかっている。わかってはいるが、このたくさんの宝の材料を前にお預けを食らうのは正直しんどい。
「いや、悪いとは思ってる。思ってるけど、ごめん。需要に合わせて作った方が後々楽になるからさ……」
「ちょっとだけでもダメ? ほら、素材が10個以上ある奴しか使わないとか制限つけるからさ」
どうにかカナタの説得を試みる。
自分なりに譲歩した条件もつけて、指を組み合わせて『お願い』のポーズも追加だ。どこまで効果があるかはわからないが、やってみなければわからないではないか。
そんなイエナを見て、カナタはうーん、と悩み始める。
「うっ……そりゃ、イエナには世話になってるし、趣味をおあずけされるのはキッツイとは思うけど……ううう」
唸って悩むカナタにもう一押し、と思いはするものの、イエナもこれ以上説得の言葉が考えつかなかった。
(カナタの好きなものを交換条件にできたらいいんだけど……そういえば私カナタの好きなモノとか知らないや。妙にご飯に拘りあるのは知ってるけど、今はそれでどうにかってできないしなぁ)
ビジネスパートナーらしく取引を考えようとしたのだが、彼の好きなモノがパッとは思いつかなかった。何故だが妙に悔しい気がするので、今度さりげなく聞いてみようと思う。
「……現在10個以上在庫があるものならオッケー。それにプラスして、俺が風呂上がってきたら終わりなら許可」
「えええええええ!?」
どうにか許可をもぎ取ったがあまりにも時間が短い。それでは一つ製作できるかどうかではないか。
不満を隠さない声をあげると、カナタがビっと指を突き付けて言葉を足した。
「一応、補足。俺はひっさびさの湯船だから、そこそこ長風呂にはなると思う。1時間くらいは堪能したい」
「あ、それならまぁ……。って長くない? ふやけちゃいそう」
「そうかもなー。でも久々だし、そのくらいは入ると思う。で、俺が上がってきたらその時点で製作は終了。交代で風呂入ってそのあとは消灯な」
「えーうーん。そりゃあ灯りは私にしか操作できないけどぉ……」
このルーム。大変便利ではあるが、使っていくうちにそれなりに不便な点も発見されている。
その一つが照明だ。
ルームの中は何もしなくても、例え、日が暮れた後であろうとも何故か一定の明るさを保っている。カナタと初めて出会ったときも、ルームの中は明るかった。あの時は2人とも疲れ切っていたため、多少明るくても寝落ちてしまった。
だが、普段から明るい場所で眠れるかというと、否だ。
その照明のスイッチなのだが、ルームの主であるイエナにしか操作ができないのだ。お馴染みの半透明の枠の中に、それらを操作する箇所があり、それはイエナにしかできない。ちなみに明るさは真っ暗闇、かなり暗い、ちょっと暗い、ちょっと明るい、煌々と明るいの5段階。眠るときはかなり暗い、けれど見えないことはないくらいにしておいている。そうじゃないとトイレに起きたときに困るから。
「その条件でダメなら素材を使うのは却下だ」
「ケチー! わかったわよぉ」
イエナだって、市場調査もしないで闇雲に製作すれば素材がもったいないことになるのはわかっている。それにこの大量の素材を前に、何か条件をつけなければ徹夜してでも色々作ってしまう己のサガもわかっているのだ。
パーティのためにも、己の健康のためにもこの条件は悪くない。
それはそれとして、恨みがましい割り切れない思いがあるだけで。
「んじゃパパッと食べて製作しちゃうんだから!」
「はいはい。片付けは任せていいよ」
イエナのそういった気持ちを理解しているらしいカナタは、苦笑を浮かべながらも食事の後片付けまで担ってくれた。
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