35.楽しいドロップ品の仕分け
イエナたちがルームに引っ込むのは早い。
太陽がオレンジ色に変わってきたら基本的にはルームに入ってしまうし、外の天気が悪かったらもっと早い。何故なら、視界が悪くなるから。
いくらカナタに気配察知のスキルがあるとしても油断は禁物である、というのがこのパーティの方針だ。
ルームに戻ると最優先になるのが、2匹のモフモフたちを労うことだ。まず、移動や戦いで汚れた身をキレイにする。シャワー状の水が出るように改造した水鉄砲で足元を中心に汚れをとってやるのだ。ゲンは結構キレイ好きらしく、この時間がお気に入りなのが見て取れた。そのうち全身丸洗いできる器具を作りたいところだ。そうすればモフモフ堪能タイムが合法になることだし。
その後、主人がそれぞれを褒めつつ好物の果物をあげて、それから地下へ連れて行くのだ。
羊たちが落ち着いたところでドロップ品の仕分けをし、カナタが夕ご飯を作ってくれる流れがいつものなのだが、今日はちょっと様子が違った。
「わぁ……素材が、素材がたっくさん!!」
「いやぁ、狩りに狩ったもんな」
今まで狩りと言えばポイズンスライムのみだったため、ドロップ品の仕分けはほぼ秒で終わっていた。が、今回は違う。特製毒針を使ったボウガンで多種多様な魔物を狩ったので、ドロップ品も凄いことになっているのだ。
一度家具をインベントリにしまい、広くしたリビングにそのドロップ品が山と積まれていた。
カナタの幸運スキルが遺憾なく発揮され、倒せばほぼ必ず何かをドロップする。普通であれば倒しても何もドロップしない事はザラらしい。が、カナタたちの場合は倒して何もないことの方が珍しかった。
イエナにとってはお宝の山に見える。
「一旦食料とそれ以外に分けるか」
「了解。食料だけでもすっごい数。これカナタがいて、ルームがあったらほんとに自給自足できちゃうかも」
「飯の味に飽きなければ可能かもな。実際夜の時間って、俺は有り余ってるからちょっと手の込んだヤツもいけそうだし。……手作り味噌、いけるかもしれない」
早めに狩りを終えてルームに引っ込む関係上、カナタはどうしても時間を持て余し気味だった。結局三食全部作ってくれる、ということになったのだが、それでも時間は余っているようだ。これからは思い切り料理に没頭することになるかもしれない。何気にカナタの食への探求心はすごいのだ。
(私だって美味しいモノは好きだけど、カナタってそれ以上にこだわりが凄いよね。私は製作に夢中なときとかご飯めんどくさいし、そうじゃなくても毎食くるみパンでも気にしないけど、カナタ絶対違うモノ作るもん)
カナタのお陰で最近は食事を忘れることはなくなっているのがありがたい。
ちなみに、イエナは寝るまでの時間を目いっぱい製作に使っているので、夜時間はむしろ足りないくらいである。
「果物もそれなりにドロップしたね。良かった」
「だなぁ。これならゲンたちに逃げられるなんてことはなさそうだし、街に行かない選択もアリだなぁ」
2人の共通認識、それは絶対に目立たないこと。
何故なら2人の知識やスキルに目を付けられると厄介だから。目立たず穏便にカタツムリ旅を続けたい。そのためにも、人目につかないほうが楽なのだ。
とはいえ、街でしか買えないモノもあるし、たまには外食だってしたい。上手くバランスをとっていきたいところだ。
そんなことを考えながら黙々と仕分けをしていると、キラリと光る石を見つけた。
「あっ!? カナタ! 見て、水の魔石ドロップしてる! しかも2個あるわ!」
「こっちには火もある! 1個だけだけど……もしかして、イエナ」
「えぇ、念願のお風呂が完成するわ!」
なんと、レアドロップである魔石が合計で3つもあった。
実は、今まで大量の水を使う浴槽は利用できなかったのだ。原因は水の魔石の不足。今までいた街では予算の関係上、生活に必須とまでは言えない入浴の分までは購入できなかった。
浴槽コミの浴室を熱望していたカナタだったが「いつか俺の運スキルでゲットできるから後回しでいい」と言っていたのだ。
その念願の品が、ついに手に入った。
「仕分け途中だったけど、私今ぱぱっと作ってきちゃう?」
「お願いしていいか? 残りは俺やっとくから! あーーやっと湯船に浸かれるのか。嬉しいな。そりゃシャワーだけでもいいんだけど、やっぱり湯船に浸かりたいよな~」
カナタは浴槽が使えるとわかると、とっても上機嫌になった。イエナが失敗するとは微塵も思っていないらしい。勿論、イエナとて失敗するつもりは毛頭ないけれど。
それだけ職人として信頼されているということが、なんだかちょっとくすぐったくて見えない位置で照れ笑いを浮かべてしまう。
「おっけー! じゃあ作ってくるわ!」
魔石を手に持ち、風呂場へと向かう。
ルームにある浴室スペースはイエナの感覚だと結構広い。そもそも、庶民はシャワーで済ませてしまうことの方が多いのだ。湯船がない部屋だって珍しくない。
だが、折角の自分専用のルーム。そして、カナタの「自室は極狭でいいから、風呂を頼む!」というたっての希望を叶えた形だ。
ちょっぴり狭い脱衣所を抜けるとそこには足を延ばして入れる湯船と、シャワー。しかし、今まではこのシャワーしか機能していなかった。
「枠組みはもう完成してるから、あとはきちんと温かいお湯が出るようにするだけね」
手に入れたばかりの魔石を、専用の場所にはめ込んでいく。あちこち微調整を終えたらあとは試運転をするだけだ。
魔力を魔石に込めた後、スイッチを押す。
「んー、温度調整もうちょっとしないとかな」
きちんと水は温まって出てきたが、触ってみるとちょっとぬるい。出しっぱなしにしてあちこちを満足するまで調節する。
「よしおっけー。あとはこのまま出し続けてタイマーが機能するかどうかかな」
「おつかれー」
「うわ!? び、びっくりしたー! いたなら声かけてよ!」
「ごめんごめん。風呂できたかなーってソワソワしちゃってさ」
いつから見ていたのか、カナタが顔を覗かせていた。心臓に悪いので本当にやめていただきたい。
「仕分けも終わったし、簡単だけど夕飯も作ったからお湯溜めてる間に食べないか? ま、テーブルとかないからキッチンカウンターのとこで立ち食いだけど」
「あ、そうだった! って、仕分けもう終わったの? ありがとう、はやいわね?」
そういえばテーブルなんかをインベントリにしまいっぱなしだったのを思い出す。ルームの主であるイエナしか家具として設置したアイテムは出し入れできないのだ。といっても、イエナ自身は別に立ち食いでも全然構わない派である。
「もう大体終わってたからな。このあとは売るものと使うものに整理整頓する作業が待ってるぞ」
「……まずはご飯にしましょ!」
思い切り目線を逸らし、イエナはダイニングに向かう。
製作やその材料に興味はあるけれど、分別作業となるとまた別の問題になってくるわけで。
「逃げたな……。まぁ、いいか。風呂も完成したし」
念願の風呂をゲットしたカナタの声色は、かなり明るいものとなっていた。
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